第154話 仙女
次の日。
朝食を食べ終えて、外で軽く体を動かそうと家の外に出ると、空から気配がした。
それほど強くないが……一人は蓮華仙人であるのは分かった。
わざと多少の気配を出しているのだろう。
流石に最初出会った時のような巨大な存在感はない。
そしてそんな彼の横には、もう一人いた。
仙人であることはその格好から分かるが、蓮華仙人のような質素なものではなく、むしろ豪奢だ。
仙人というより天女のような雰囲気で、非常に美しい。
正直、この世のものとは思われないような凄絶な美貌と言った方が良いかもしれない。
一体何者なんだ……と警戒しつつ見ていると、二人とも空から降りてきて近くに着地した。
「……武尊。もう起きておったのか。早いのう」
まるで近所に住む老人のような雰囲気で気さくにそう話しかけてくる蓮華仙人に、俺は言う。
「実家でも朝は早かったものですから……」
「なるほど、気術士も精神を鍛える必要があるだろうからのう。その辺りはむしろ仙道の方が適当かもしれん……」
「そうなのですか?」
「うむ。仙道というのは、修行する時はするが、遊ぶときは遊ぶしのう。伝説などで聞いたことはないか? 酒や賭博に打ち込む仙道の話を……」
言われて、確かに、と思った俺は言う。
「ありますが……本当のことなのですか? 流石にただの伝説というか、人間と同じようなところもあるから、という親近感を抱かせるための話かと思っていたのですが」
「いいや、紛うことなき本当の話じゃ。特に酒などはわしも好む……今度、人界の酒を土産に持ってきてくれるとありがたい」
「……承知しました。流石にこの年齢で購入はできないのですが、両親に頼めば仕入れることはできるでしょう」
「うむ、光枝に頼んでもよかろう」
「あぁ、それは確かに」
すでに狐仙だと認識しているので、我が家のメイドさんだということがすっかり抜け落ちつつある。
まぁ昨日もご飯を作ってくれたりお風呂入れたりとちゃんと実家にいる時と同じような仕事をしてくれていたのだが。
なんだか申し訳ないというか、先輩にそんなことをさせて良いのか、みたいな気がするが、光枝さん自身は楽しそうだし、手を出そうとするとむしろ、私の仕事をとらないでくださいと文句を言われたおでこれはもう仕方がない話だった。
それから、
「……で、蓮華よ。いつ
と、蓮華仙人の隣に立っている美女がその口を開いた。
これに蓮華仙人は、
「おっと、失礼をしましたな。つい話し込んでしまって……しかし、無理やりついてこられたのですから、自己紹介くらいご自分でなさればよかろうに」
そう言う。
丁寧な言い方だが、遜ってる感じはないな。
仙人の友達か?
いや……。
「久々の人界からの客人なのだ。それも仙道の修行をするという。師となる人物から紹介されるまで待つというのが筋ではないか」
「さようですか……まぁ構わんのですが。武尊よ。この方は
「月姑さまですか……お初にお目にかかります。高森武尊と申します。この度、仙界において修仙させていただくこととなりました。どうぞ、よろしくお願いいたします」
そう言って頭を下げると、月姑仙女は微笑み、
「……うむ。その年の人間にしては、かなり礼儀もしっかりしているのう。これは好ましい。よろしく頼むぞ、武尊」
「はい……しかし、私のような人間のところに、わざわざ挨拶にきていただけたのですか?」
この質問には、蓮華仙人が答える。
「それなのじゃがな、この方は蟠桃園の管理をされている仙女の一人なのじゃ。今回、わしが仙桃を譲ってもらえないかと頼んだのもこの方なのじゃが、その際に事情を色々と話してのう。興味を抱かれて……武尊もじゃが、澪にものう」
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