第147話 門
「……これで最後のチェックポイント、か」
あれから、富士山の登山道から微妙に外れた位置にある、いくつかのチェックポイント……それは平べったい石だったり、不自然に存在する切り株だったりしたが……そういうものを踏んだり触れたりながら歩き回った。
そして、光枝さんがいうには、たった今、触れたそれが最後だ、ということだった。
それは巨大な巌だった。
こんなところが富士山にあったのか、という思うような場所で、山肌から突き出るように、巨大な一枚岩が舞台のように張り出していた。
ただし、そこに到達することは普通の人間にはかなり難しそうだった。
道などない上、ほとんど崖下と言っていい位置にあるからだ。
ではどうやってそこに俺たちが辿り着いたかといえば、素直に九十度近い山肌を駆け降りて、である。
俺にしても他の二人にしても、これくらいのことは余裕だ。
特に澪などは、その気になれば空を飛んで到達できる……いや、光枝さんも同じか。
俺だって、飛べはしないものの、空中軌道は出来るから、仮に山肌に全く足場がなくても到達することは出来た。
「そうですね……では」
光枝さんがそして、そこで目を瞑り、集中する。
何か祝詞のようなものを口にしているが、俺たちには聞き取れなかった。
特殊な言語の詠唱か、暗号のようなものか……それはわからない。
ただ、全てを唱え終えた後、ふっとあたりが光り輝くと、山肌に奇妙な次元の裂け目が生じるのが見えた。
「……っ!? これは……」
驚いて俺がそう言うと、光枝さんが答える。
「これが仙界への入り口……《仙界門》と呼ばれるもののうちの一つです。ここから向こう側に飛び込めば、すぐに仙界に辿り着きますよ」
「そうなのか……よし、じゃあ早速行くか」
もうあたりに妖魔の気配は無いとはいえ、長時間開いておいていいものでは無いだろう。
一般家庭の玄関だって、入ったらすぐに鍵を閉めた方がいいご時世だからな。
仙界門ならなおさらだ。
光枝さんは俺ん言葉に頷いて言う。
「私は最後に行きますので、お二人が先にどうぞ」
「いいのか?」
「閉じないとならないので、それには最後の方がいいんですよ……さぁ」
「じゃあお言葉に甘えて」
そして、俺はその次元の裂け目に飛び込んだ。
後ろからは澪が続いた気配も感じる。
最後にはしっかり光枝さんも。
それから門は光枝さんの力によりしっかりと閉じたらしい。
後ろから入ってきた光がある時点を境に消えた。
門の中は不思議な空間で、即座に仙界へ、というわけでは無いらしい。
かといって、俺が意識的にその中を動けるかといえばそういうわけでもなく、まるでウォータースライダーに乗っているような、勝手に運ばれているような感覚がした。
そして、スポン、と抜けたような感じがすると……。
「おぉ……! これが……!!」
気づけば、俺は別世界にいたのだった。
「どうやら、安全に辿り着けたみたいですね」
光枝さんが続けて言う。
「……まるで安全に辿り着かないことがあるかのような台詞じゃが?」
澪が鋭いツッコミを入れると、光枝さんは少し慌てて、
「い、いえ。そんなことは……滅多に無いですよ?」
と言う。
「滅多にと言うことは、たまにはあるんじゃな……」
「まぁ……別世界への扉は、不安定な時がありますからね。でも本当に滅多に無いですから。交通事故に遭う可能性よりは低いはずです」
「飛行機事故じゃと?」
「それよりは高いかもしれませんねぇ……」
「まぁまぁやばいの。まぁ、無事に着けたのだから、今はいいか……」
呆れたようにそういった澪だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます