第142話 土砂崩れ
──ガラララッ!!
と、少し離れた場所から大きな音が響いた。
それに遅れて、
「……キャーッ!」
という甲高い悲鳴が聞こえ、俺はそちらに走る。
すると、山の一部が崩れて落ちていて、山道の途中で途方に暮れたように座り込む男性の姿があった。
俺が、
「……何かありましたか!?」
と尋ねると、
「つっ、妻が、あの中に巻き込まれて……」
と、大量の土砂が積もっている場所をゆるゆると震える指で指差した。
「……くそっ!」
言われると同時に、即座に探知系気術を起動させると、
「……まだ生きてる。おい、二人とも!」
しばらくして追ってきた二人の気配に声をかけると、
「土中に結界張っておきますね」
「ではわしが土砂を退けるか」
そう言って動き出した。
二人の姿は男性には見えておらず、それは二人が隠匿術を使っているからである。
助けるのはいいが、一般人の前にあまり姿を晒すわけにもいかないからだ。
俺?
俺は普通の子供にしか見えないからな。
ちなみに俺は、土砂がこれ以上他のところに落ちて行かないように抑えつつ、固めている。
澪が払っている土砂も力任せに吹っ飛ばすのが目に見えているから、それも気をつけて。
しばらく経つと、土砂の中に人の姿が見えてくる。
仰向けになった、登山服姿の女性だ。
傷は……あぁ、これはまずそうだ、と思う。
かなり血を流しているからだ。
ただ、光枝さんが迅速に結界を張ったため、圧死は免れたようだ。
まだ息はある……。
俺はすぐに近づいて、治癒系気術を使う。
あまり得意な系統ではないが、いざという時もあるからとしっかりと研鑽はしていた。
だから大丈夫なはずだ……。
浄化も一緒に扱い、骨を繋げ、臓器の修復をしていくと……。
「……ゴ、ゴホッ!」
という席とともに、血の塊が口から吐き出される。
それから、徐々に呼吸が落ち着いていき、顔色も元に戻った。
土砂による汚れは酷いが、怪我は全て治った。
これで大丈夫、と澪と光枝さんと目を合わせてから、俺は男性の元まで行き、
「怪我はもう大丈夫ですが、すぐに人が来ると思うので近くの山小屋に連れて行った方がいいです。そのあとはすぐに下山を……失った血は戻せないので」
と言う。
そのまま俺がその場を去ろうとするも、男性が、
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 君は……!」
と叫んで、止めようとしてくるが、俺はそれを無視して去る。
今は彼しかいないが、後ろの方から人の姿が見える。
一人だけが見たなら見間違いで済むが、何人もに目撃されると面倒だ。
最悪、記憶を消すという手法もないではないが、それをやると後々、脳に問題が出たりすることがあるからやりたくはない。
だから、これでいいのだ。
それに、俺たちにはまだやることがあった。
「……おい、さっきの土砂崩れって、やっぱりアレだよな」
俺がそう言うと、いつの間にか合流していた光枝さんが、
「妖魔の仕業で間違い無いでしょうね。仙界への入り口が見つからないからと、腹いせに破壊活動をすることはよくあるんですよ。結界崩しの手法としても、それなりに効果がありますからね」
「迷惑な奴らだ……上からだから、犯人というか、妖魔はそっちにいるな?」
「すでに捕捉してますよ。さっさと倒してしまいましょう」
「おっ、ではわしが先に行くか。飛んだ方が早いしの」
澪がそう言って飛んでいく。
人間の体のままでも龍としての飛行能力は失わないらしく、ふよふよと上に上がっていく。
俺と光枝さんは、垂直な山肌を、また土砂崩れが起きないように注意しながら跳び上がってついていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます