第141話 妖魔の生態
「……それで、登山は、いいんだけど、さッ!」」
俺が息を深く吸いながら尋ねると、
「なんですか?」
と光枝さんが軽い声色で言う。
そんな彼女に、俺は若干の腹立ちを感じながら、言い返した。
「なんですかじゃない、だろッ! なんで妖魔がいるんだよ!」
そう、今、俺たちは妖魔と戦っていた。
光枝さんはその爪をまるで動物のように長く伸ばし、奮っている。
澪は口から炎を吐き出して焼き、そして俺は木刀に真気を纏って切り捨てている。
誰も全く苦戦する様子がないのは幸いだが、登山するつもりで来て妖魔退治は勘弁してほしかった。
「……あぁ、疲れた」
十匹ほどいた妖魔全てを倒し終わってから、ため息をつきながら俺がそう言うと、光枝さんは、
「全然疲れてなさそうですが?」
「精神的に疲れたんだよ! というか、妖魔がいるなら事前に言ってくれって……」
いるのが分かっていたなら、せめて注意くらいして欲しかった。
しかし何もなかったから油断していたところに、さっきの妖魔の集団である。
さほど強くない下級妖魔ばかりだったから良かったが、それ以上だと流石に面倒だ。
リュックとか傷つけずに戦うのは気を遣うから気疲れする。
負けるとは全然思っていないが……。
そんな俺に、光枝さんは、
「いえ、これは私も予想外でしたよ。一匹もいないとは思ってなかったですが……ちょっと多いです」
「一匹二匹はいると思ってたんじゃないか……それで、なんで妖魔が?」
「それは簡単ですよ、ここに仙界の入り口があることを、妖魔たちは知っているからです。仙界に入りたくて、どうにかそれを探し出そうとうろうろしているわけですね」
「マジか。なんで気術士たちが知らないことを妖魔が……」
「妖界にいる上級妖魔たちが知ってるんですよ。で、下級妖魔に探させているんです。上級妖魔は、場合によっては人界では神扱いされているようなものもいますから……人間の気術士とは格が違うのです」
「それほどに?」
……いや、でも温羅のことを考えれば、不思議ではないか。
やつは間違いなく上級妖魔、に分類されるような存在だったからな。
人界に出現する上位妖魔よりもさらに上の存在を、上級妖魔と言うのだろう。
しかし……。
「どうして本人……本妖魔?が直接来ない?」
その方が手っ取り早いような気がするが。
仙界の入り口を見つけにくくしているこのチェックポイント周りも、結界の一種だろうし、強力な力を持つ存在なら力任せに破壊することが出来るだろう。
わざわざ弱い妖魔にうろつかせるのも非効率な気がする。
けれど光枝さんは言う。
「ある程度以上の格の妖魔は、中々、人界にやってこられませんからね。来れば弱体化したり、存在が消滅する可能性もあります。そのあたりについては、格の低い妖魔の方が便利なんですよ」
「なぜ弱体化など」
「やはり空気中に含まれる妖気が微弱ですからね……格の高い妖魔ほど、精神的な存在になっていきますから。体を維持するには大量の妖気が必要になります。そして、それが尽きれば消滅しますが、避けようとするのなら肉体を得て現界することになります。肉体を持つ妖魔になってしまうと、それ即ち弱体化ですので……」
「……なるほどな。高位の妖魔がたまに人界に妖魔領域を作ることがあるけど、アレって妖気を拡散させないためだって言われてるが……そういう理由か」
「大量に妖気を集めれば、上位の存在になれますからね。妖気の金庫を作る感じでしょうか。ま、その辺りの理屈は気術士も詳しいでしょう……ともあれ、まずはこの辺りの妖魔を間引いておいた方がいいですね。多すぎますから」
光枝さんはそう言って話を戻す。
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