第124話 構える
「……そういえば、人形無しの模擬戦は久々だな」
練武場で咲耶と向かい合いながら、俺はそう呟く。
審判役の東雲家の高弟が少し離れた位置に立っている上、練武場の周囲にはわざわざ見物しているギャラリーまでついている。
子供同士の模擬戦が面白そうだと思ったのだろう。
東雲家の連中はほぼ皆、重蔵と同じような性質で、戦いに人生を捧げる高潔な侍のようだ。
それだけに、自分が戦うだけでなく、他人が戦っている様子を見るのも好きらしい。
毎回、俺が東雲家に来るたびに、薙人と模擬戦をするのだが、それも見物されてるしな……。
ただ見るだけではなく、模擬戦が終わった後に結構的確なアドバイスを皆くれるので、これもまた、修行の一環なのだ。
薙人はそれもあって、この三年で大分強くなっている。
それでもまだ、俺が無傷で完勝なのだが、いずれは傷くらい負わせられるようになるだろうな。
基本的にこの模擬戦では、気術は身体強化のみを使い、それ以外は禁止だ。
そうでないならば、薙人に傷を負わせられるようなことにはならないが、薙人はやはり、東雲の血筋なのか、武術に高い親和性を見せているのだ。
ちなみに、気術禁止なのは、これが武術の訓練だからだな。
全てありの訓練もまた、他にある。
「確かに……人形ですと、怪我することがありませんし、私たちの場合、幼稚園の頃からずっとそれでしたからね。家では両親やお祖母さまと武具を使った稽古もしておりますが……」
咲耶がそう言った。
「ま、そうだろうな……」
美智はあれで割とオールマイティに戦う気術士だ。
およそ不得意なものというのが存在しない。
しかも全てを高水準で修めており、ちょっと存在自体が反則ではないかと思ってしまうようなタイプである。
だからこそ、同じタイプである咲耶に教えられるのは自分だけだと思って教えてるのだろう。
「……それにしても、武器はそれでいいのか? 木刀……というか、木剣、それも大剣みたいだが」
咲耶が手に持っている武器を見て、俺はそう言った。
咲耶が持てているのが不思議なくらいに巨大で、百七十センチくらいはある上に、幅広である。
もちろん、彼女が身体強化を使っているから可能なのだろうが……。
咲耶はそんなことを考えている俺に言う。
「問題ありません。大きくても初戦は木ですから、それほど重くないですし……それに、ちょっと使ってみたかったので」
「……どうして?」
「朝に……ちょっとテレビで……」
「あぁ……」
言われて、休日の朝の時間帯にやっている、少女向けのアニメを思い出した。
そういえばそのヒロインが、武器として大剣を使っていたような……。
あれに憧れたのか。
咲耶が天才と言えど、感性は普通の子供らしかった……かわいらしいことだ。
けれど、そのヒロインがやっていることを実現できるその能力はかわいらしいどころではすまない。
というか、多分、そのヒロインより咲耶の方が強いだろ。
そう思うが、憧れというのはそういう論理的なものではないか……。
「分かった。俺は普通の木刀だが、卑怯とは言わないよな」
「勿論です。それにただの酔狂というわけでもなくて、普段使う武器がなかったものですから……」
彼女が普段持ち歩いている武器は、特殊な鉄扇が多いな。
あれは美智も昔よく使っていたものだが、確かにここには存在しない。
「なるほどな。じゃあ早速やるか……いくぞ、咲耶」
そう言った俺に、咲耶は勇ましい表情で、
「はい!」
そう言って構えたのだった。
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