第120話 真なる和解
「なんだ……今更気づいたのか? 俺はてっきり、どこかで察せられているかもと考えていたんだがな……」
まじまじとした目で俺を見つめる重蔵に、俺は笑いかけて言う。
気分は意外にも割とすっきりしていた。
重蔵の事情を全て受け入れると……なんだかな、こいつに対して感じていた復讐心、怒り、そういうものはさっぱりと洗い流されてしまった気がする。
とはいえ、根本的な……俺を殺したであろう原因についての憎しみは変わらないが。
必ず詳細を明らかにして、見つけ出してやろうと思っている。
そんな俺に、重蔵は言う。
「本当なのか……本当にお前が、尊……いやこれではわかりにくいか。北御門尊なのか……?」
「そうだと言っているだろう。まだ納得がいかないのか? そもそも……そうでなければお前とまともに戦えるわけもないだろう、小三が」
真面目くさって言う台詞でもないが、そもそも俺の存在はおかしい。
これだけ戦える小三の気術士など、まずいないと言える。
それに重蔵は、
「いや、確かにそうだが……なぜだ。どういう事情で……顔も違えれば、名前も異なる……高森の家の子供だろう? それなのになぜ……」
「その辺りについては、俺も驚きの事情があるんだよ……説明してやる……」
そして、俺は重蔵に殺された後から、こうして転生するまでのことを掻い摘まんで話した。
重蔵はそれを黙って聞いていた。
俺があの鬼神島に縛り付けられ、苦しみの中で死んでいったことについて聞いている間は神妙な表情をしていたが、温羅に出会った辺りからは何か興味深そうな顔だった。
そして、転生したことについては、あれから六十年生きた重蔵ですら聞いたこともない技法だったようで、
「……転生など、そのような術があるのか……。いや、こうしてお前が目の前にいるのだから、あるのだろうが……」
そう言う。
「なんだ、あれだけ信じがたい顔をしていたのに、もう信じたのか」
「……お前は、あの場にいた尊でなければまず知り得ないことを知りすぎている。たとえ、転生部分が嘘だったにしても、尊が生きているという前提でなければ、整合性がとれない。だが、尊が尊として生きていたなら……すでにわしの元へ、復讐に訪れているだろう。それが今日までなかったことを考えれば……お主がまさに尊なのだと、そう考えるのが合理的だ」
「まぁ、確かにな。生きてたら六十年も放っておく理由はない、か」
「そうだ……尊。もはや、遅いかもしれないが……」
「なんだ?」
俺が首を傾げると、重蔵は重いだろう体を無理矢理引き起こし、それから土下座の姿勢をとった。
そして、言う。
「……すまなかった。あの日のことは……今まで一日たりとも忘れたことはない。どれだけ謝っても足りぬ事も理解している。許してくれずとも構わない……だが、謝罪だけは、させてくれ。本当にすまなかった……」
言いながら、重蔵の瞳からは涙がぼとりぼとりと落ちてきている。
俺を……というか、尊を目の前にして、決壊したらしい。
昔は特に泣き虫というタイプでもなかったが……。
「なんだよ、年を取って涙もろくなったか?」
「……茶化すな。わしは本気で……!」
「分かってるよ……。もう、分かったんだ。だから、すべて話す気になった。お前が、嘘をつかずに正直に全てを話してくれたから」
「尊……」
「もしもお前が、ここまでに嘘をついたり、あの日のことを忘れ去ろうとしていたら、今日殺していたかもしれないな。だが、もうそんな気はなくなった。さっきも言ったがな。俺は、お前を許すよ……」
「尊……すまない。そして……ありがとう。わしは……」
「そういうのも、もう終わりだ。気にするな……とまでは言えないが、極端に罪の意識を感じる必要はない。いいな?」
「……あぁ、分かった。善処する……!」
そして、重蔵は、何かなくしたものを取り戻したような、そんな笑みをその年老いた顔に浮かべたのだった。
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