第99話 東雲家
「……ここが東雲家本家か。すげぇな」
東雲家が用意した送迎車から降りて、開口一番そう言ったのは龍輝である。
特に荷物はなく、と言っても、彼が持っていないだけでトランクから東雲家の人間が中に運び入れている。
普段の様子から忘れがちになるが、龍輝にしろ、咲耶にしろ、お坊ちゃま、お嬢様だからな、本当は。
どちらの家も当然の如く資産家であり、表向きの職業と資金集めを兼ねて、企業経営をしている。
残念ながら我が高森家は気術士一本だが……最近、美智の采配で、一つ二つ、北御門本家の会社の子会社を任せようかという話も出てきている。
もちろん、俺に対する気遣いだ。
別にそこまでしなくてもうちは貧乏というわけではなく、むしろ資産はある方なのだが、それだけでは心配らしかった。
まぁ、術具作りの素材とかも高いものがあったりするし、金はいくらあっても困らないのでありがたくはある。
ちなみに、今まで経営なんて関わってこなかった父上にそんなこと出来るのだろうか、という気がするが、その辺りについては本家の方でそれなりの人物を派遣する上、母上が意外に詳しいらしくなんとかなるだろうという話になっている。
「北御門本家とはまた、趣が異なりますね。武家屋敷風と言いますか……ここに来るまでの道も、かなり曲がりくねっていたりして、攻めにくい作りになっていました」
咲耶が龍輝に続いてそう言う。
「確かに、北御門本家はどっちかというと、広大な敷地にいくつもの建物・設備が、という感じだったが、東雲家本家はなんというかな……城っぽい感じだな」
俺が感想を言うと、咲耶も頷いて、
「東雲の祖は剣仙だという話ですが、戦国の時代からは大名家の血筋にも繋がっているとも聞きます。それがゆえの、武家としての誇りのようなものがあるのかもしれませんね」
そう言った。
「なるほどね、そこまでは知らなかったが……お、薙人が来たな」
本家入口の門の方を見ていると、向こう側から薙人が走ってくる。
その後ろには重蔵が付いてきていて、それだけ見るなら普通の祖父と孫にしか見えない。
けれど、祖父の方に迫力がありすぎるというか。
重蔵は身長も高く、その年齢にしてあまりにも精悍すぎるからな。
街中で見かけたら大半の一般人は二度見することだろう。
薙人は意外に可愛い感じのする顔立ちなので余計に。
「お前ら! よくきたな!」
薙人が俺たちの前まで来てそう言った。
その声色や表情に、以前のような嫌な部分はない。
純粋に同世代の友人が来たことに喜んでいる、そんな表情だった。
「別にわざわざ出迎えに出てくれなくても良かったのに」
俺がそう言うと、薙人が、
「楽しみだったんだ! 友達がうちに来るなんて中々ないから……」
「俺は年に一度は来てたけど」
「武尊はもう慣れちゃったからなぁ。咲耶と龍輝は初めてだろ!」
「まぁな」
それから、薙人は二人に、
「東雲家にようこそ、咲耶、龍輝! うちのもてなしを楽しんでくれ!」
そう言った。
二人はそれに、
「しばらくの間、お世話になります」
「おう、頼むぜ。あっ、剣術とか教えてくれるんだよな!? 楽しみだ」
と言う。
そして重蔵がそこで口を開き、
「望むならうちの技術の全てを教えるつもりだ。ただ、修行の厳しさは、うちの家門の奴らに対するものと変わらないことは覚悟しろ。いいな?」
と言ってくる。
それに対して、
「……肝に銘じます」
「ちょっと怖くなってきたんですが……」
咲耶と龍輝はそんなことを言って頷いた。
それから、重蔵は俺にも視線を向け、
「……特に武尊。お前については基礎はほぼ全て教えたからな。今回は特にきついぞ。東雲の霊剣術、その神髄を叩き込む。耐える根性はあるか?」
と言ってくる。
だが、俺としては願ってもないことだ。
強くなれるのならば、敵の教えだってなんだって受ける覚悟は、あの五十年の封印期間に完全にし切っている。
だから俺は重蔵に言った。
「むしろ、東雲家の全ての技法を俺に盗まれないようにお気をつけください、重蔵様」
「……カッカッカ! 言うではないか! それでこそ
「承知しました」
それこそ、望むところだ。
俺にその首掻っ切られないように、気をつけることだな。
心の底で、俺はそう呟いて重蔵を睨みつけたのだった。
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