第97話 許嫁として
「……東雲家に私たちがですか?」
「いや、いいのか? 他の家門に俺たちが行っても……」
咲耶と龍輝に東雲家での合宿のことを言うと、そんな反応をされる。
まぁそれも当然と言えば当然だろう。
気術士というのはそもそもが秘密主義の家が多い。
これはいざという時に切り札を失わないためであり、当然の自衛である。
最近は俺が前世、生きていた時代と比べてかなり、技術的な公開が進んではいるものの、やはり最も重要な部分に関してはどの家も秘匿している。
それなのに、東雲家はそんな技術を盗まれかねないような合宿など提案しているわけで、不思議に思っても当然だった。
ただ、俺は言う。
「あの家の技術は、肉体と密接な関係があるから……そう簡単に盗めやしないんだよ。だから見られても構わないと思ってる。まぁ、それでも奥義とかになってくると別だとは思うが、そこまで見せはしないだろうし、気軽に交流気分で気分で行けばいいんじゃないか?」
「気軽にとおっしゃいますけど……」
「そうだぜ、俺と武尊はいいが、咲耶は北御門の直系だ。他の四大家に直接行くのは……」
龍輝が懸念を口にする。
確かに、それはある。
四大家は、表向き、しっかりと協力関係にあり、妖魔退治のために一丸となって戦う気術士の集団だとされている。
ただ、実際には各家がどれだけ妖魔退治に貢献したか、またどれくらい優秀な気術士が所属しているか、そんな部分で鎬を削り合っているところがあり、直系が直接行ってしまうと危険があるかもしれない、とは一応言える。
直系の血筋が途絶えれば、一門の家は散り散りになり、各家に吸収されるような形になるだろうからな。
ただ……。
「はっきり公式に四大家の直系を招いたのに、残念ながら死んでしまいました、ではもはや四大家としての面目は保てんだろう。だからその辺は安心していい。そもそも、何かあったら俺が命を賭けて守る。許嫁なんだからな」
四大家の商売は、簡単に言ってしまうと面子でやっているところが大きい。
それなのに、正式な客すら守れなかったでは丸潰れというものだ。
特に東雲家は真正面から戦う腕っぷしが評価されている家なので、そういう意味でも面子にどの家よりもこだわる。
だから安心していい。
そう思っての言葉だったが、咲耶は少し頬を赤くして、
「そんな、命懸けだなんて……分かりました。私、武尊様の許嫁として恥ずかしくないよう、堂々と東雲の門を潜りたいと思います」
そう言った。
そんな咲耶を見て、龍輝は、
「……お熱いことで」
とため息をついた。
俺は彼に尋ねる。
「そういえばお前には許嫁はいないのか」
龍輝も北御門一門では上位の家柄だ。
許嫁くらいもういてもおかしくない年齢なのだ。
しかし龍輝は首を横に振って、
「いやぁ、いねぇなぁ……。っていうかあれだぞ。お前らといつも一緒にいるから、どうにも尻込みしてしまう家が多いらしくて……」
「あぁ……なるほど」
龍輝はこの歳にしてかなりの腕の気術士になっている。
というか、この年齢でこれは異常だ。
俺と咲耶についてこられていることがまず、おかしいのだ。
そんな奴と許嫁になるのなら、それなりの腕がなければ勿体無い、と考えるのが気術士の家というものだ。
やはり、強力な気術士同士の子供は、同じく強くなる可能性が高いから。
真気の量は、半分は遺伝、半分は運だと言われていて、だったら半分については万全の体制で挑みたい、とこういう考えになる。
しかし、そうなると龍輝と見合うだけの力を持つ少女などなかなか見つからない。
技術については多めに見るとしても、同じ量の真気をというだけでほとんどが脱落する。
だから、選ぶのに難航しているのだろう。
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