第96話 誘い
「……合宿? またか……あの爺さんは」
学校に来ると、薙人が話しかけてきて、東雲で合宿を今度しないかと重蔵が言っている、という話を持ってきた。
ちなみに、薙人との関係は三年前と違ってだいぶ変わっている。
本来は別の、東雲一門が主に通う小学校に行くはずだったのが、北御門が多いここに来る程度には。
実際、あの頃は、薙人がとにかく俺に喧嘩を売ってきていたが、今はまぁそこそこ仲のいい友人という感じだ。
そうなった理由は簡単で、かつて重蔵にうちに来いと言われた時に実際に行き、薙人をボコボコにしたからだ。
何回も立ち向かってくるたびに、ボコボコにした。
結果として、普通なら恨み骨髄になりそうなものだが、なぜか尊敬された。
そこからは俺に対するおかしな喧嘩を売ってくることも、また咲耶を狙うようなこともなくなっている。
まぁ……そもそも、東雲の連中というのは脳筋な奴が多い。
それは重蔵をしても変わらない。
良くも悪くも裏表というものがほとんどないタイプばかりだ。
それだけ、かつて俺は重蔵にどれだけ邪険にされていても、結局俺が弱いからだということしか思っていなかったのだが、殺されてしまったので重蔵だけは本来の東雲の性質とは少し違ったのだと思っている。
ただ、どう違うのかと言われると……なんとも言葉にし難いが。
今の重蔵はむしろ本来の東雲のそれそのもののような気がするしな。
実際、孫である薙人をどれだけ俺が叩きのめそうとも、文句一つ言わなかった。
他の家でこれをやったら結構な目で睨まれるものだが、東雲の家ではむしろ薙人の方が周りからこれを機会に精進しろと言われるばかりだったからな。
そんなわけで、東雲家での修行は意外にも割と居心地が悪くない。
「そんな嫌そうな顔するなよ。お祖父様はお前のことだいぶ気に入ってるんだぞ。むしろ俺よりも気に入ってる感じがする……」
薙人がため息をつきながらそう言った。
重蔵より恐ろしいほど扱かれ、厳しく育てられてきた薙人だが、その割に重蔵のことは嫌いではないらしい。
というか、東雲家で最も強力な武人として尊敬しているようだった。
やはり、東雲家の人間というのは、強い人間をこそ尊敬する。
そういう性質なのだと彼を見ていると思う。
かといって、弱い一般人を下に見るかといえば、そういうこともない。
一般人は戦いとは無縁であり、かつこの世界を形作る最も重要な存在であるから守るべき人々だ、とそんな風に教わっているらしい。
重蔵が?
と思うが、かつての重蔵も確かに一般人についてはそんなことを言っていた。
厳しいのは弱い気術士に対してだけだ。
そしてその最たるものが俺だった、と……そこを思い出すとだんだんイライラしてくるな。
重蔵の顔を見るたびに切り掛かってやりたくてたまらなくなるが、北御門一門の人間である俺が、東雲家でいきなりそんなことをしたら狂人扱いされるし、そもそも美智や咲耶にも迷惑がかかる。
やるなら、正体を重蔵以外に見られない場面で。
そう決めているから、今は手出しをしない。
勝てないからそうしてるのでは?
と言われると、そんなことはないと言いたいが、やはり今の重蔵はかつてよりも遥かに強いからな。
どこかのタイミングでその底を見たいというか、本気の実力を見てから、というのは確かにある。
腰抜けと思われるかもしれないが、俺は気術士四大家において最強である存在を三人殺すつもりでいるのだ。
一人目で差し違えるわけにもいかない。
三人目だったら別にそれでもいいんだけどな。
あくまでも倒して、生き残らなければ話にならない。
俺の目標はあくまでも復讐の達成であって、一人だけ殺して満足とかではないのだ。
そんなことを考えながら、俺は薙人に言う。
「お前のお祖父様が俺のことをそんなに気に入ってるのは、なんか変な奴だと思うからだろ。普通、四大家の直系を、やっていいと言われたからってボコボコにはしないからな」
「……あれは酷かった。いまだに思い出すと体中が痛む……東雲の高弟たちだって、俺に対してあそこまでやることはなかったよ」
「でも結構、修行厳しいんだろ? 東雲の霊剣は、苦しみの果てに身につけるものだって」
「そもそも真気を完全に剣と同化させることが難しいからなぁ……真気を通すところまではどこに家でも出来るだろうけど、うちはそこはただの始まりだから……」
「俺にも教えるって話だけど、本気だと思うか?」
「本気だろうさ。そもそも、真似しようとしたところで真似できることでもないし、うちはあんまり技術漏洩とかに気を遣ってないから。盗めるものなら盗んでみろくらいだし」
「……本当に武術一辺倒の家だよな、東雲」
「でも頑張れば頑張るほど強くなれるから楽しいよ。ってことで、合宿は来てくれるってことでいいんだよな? あっ、龍輝と咲耶も今回は呼べって」
「え、あっ、おいちょっと……って、行ってしまったな。まぁとりあえず二人に聞いてみるか……」
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