第94話 誘い

「……ところで、さっき言ってたことは本当なんですか?」


 零児が運転する車の中、俺が尋ねる。

 零児はすでに二十歳なのできっちり運転免許を持っている。

 今回のような、現地集合の任務も多いから、運転経験も豊富だ。

 例え今すぐ襲われたとしても、その華麗なるドライビングテクニックを披露してくれるだろう。

 

「さっきのっていうと、新しい邪術師勢力がいるかもって話か?」


「そうです」


「あぁ、まぁあれは注意喚起ってのが半分だな。ただ絶対にないとは思えねぇ。あそこで言った通り、今回の合成鬼の数は異常だった。あれだけの数を用意するには資材も術士も相当準備する必要があるが……有名どころにはその気配すらなかったからな。それに、今日は正直、大したことなかったろ?」


 零児のこの台詞を聞けば、さっきまでいた気術士たちは目を剥くかもしれない。

 あれだけの激戦であったのに、大したことなかった、とはどういうことかと。

 けれど俺の感想も零児と似たようなものだった。


「あくまでも、合成鬼がいっぱいいただけで、何かを目的とするような動きはなかったから、ですか?」


「おぉ流石、武尊だな。分かってるじゃねぇか。加えて、報告を受けてる限り、出現したのは全てが下級鬼だ。同じ形のな……これが怖い」


 これには龍輝が首を傾げて、


「どうして怖いんだ?」


 と尋ねる。

 すると、


「どうしてだと思う?」


 と零児が俺たち三人に向かって尋ねてきた。

 零児は時々、俺たちをこんな風に試したりする。

 いや、半ば授業かな。

 色々考えて行動しろ、という。

 俺は昔からそうしているが、咲耶と龍輝についてはその辺りまだまだだ。

 だから大抵、解答の機会は二人に譲ることにしている。

 今回は咲耶が少し考えてから答える。


「……同じものを複数揃えられるようになったかもしれないから、ですか?」


 その答えに、俺は感心する。

 それは零児も同じようで、


「ほう、すごいな。一発で当てた」


 と感嘆するように言った。


「量産できるってことか……」


 龍輝も咲耶の回答を聞いてすぐに理解したようで、そう言う。


「その通りだよ。今までは合成鬼やらの合成妖魔の出現は頻発していても、いずれも形態の異なるものばかりだった。それこそ醜悪な形の、まるきり“失敗作です”とでも言わんばかりやつが多かった。だが、今回のは、持ってる武具は少し違ったりもしたが、それでも皆、形はほぼ同じだった。違っていても、せいぜい誤差程度。それはつまり、誰が作ったにしろ、量産できる体制が整ったか、整いつつあることを示しているんじゃねぇかな……」


「それってやばいんじゃ……!」


 龍輝がそういうと、零児は、


「やばいさ。今日くらいの数や質なら、まだなんとでもなる。だが、これが中位鬼くらいの合成妖魔を量産できるようになれば……かなりの被害を覚悟しなきゃならなくなる。気術士のみならず、一般人についてもな」


 そう言った。

 まぁそうだろうなという感じだ。

 俺たちなら、それでも倒せるだろう。

 しかし、俺たちの手は有限だ。

 それなりの強さの気術士が各地にいなければ、壊滅的被害を受ける可能性が普通に存在するのだ。

 それを避けるためには、どうしても対策が必要だった。

 俺は尋ねる。


「婆娑羅の上層部では何か対策は考えているのですか?」


「十席会議の中で、いくつか意見は出てる。その中の一つに、新しい部隊を作らないかって話があってな……」


「新部隊! かっこいいぞ!」


 龍輝が嬉しそうにそんなことを言う。

 彼は最近、朝にやってる戦隊モノにハマっている。

 そのためにそういうものに憧れが大きい。

 妖魔と戦ってる時点でほぼ、似たようなものだと思うが、また感覚は別のようだった。

 謎だ。

 

「かっこいいかはともかく、かなり過酷な部隊になるはずだ。必要ならばいつでも現場に急行できる遊撃部隊をイメージしてもらうとわかるかもしれねぇ。事の性質上、少数精鋭.……つっても、後方支援含めて二十人くらいでまず考えられてるが、どうだ。お前らそこに入るつもりはねぇか?」

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