第93話 任務終了

「……よし、お前ら、よくやった! 探知班の報告ではこの辺りの妖魔は全ていなくなった! 市街地に逃げたのも数体いるが、全て追跡中とのことだ。後は俺たちの出る幕はないだろう……」


 前に立ってそんな話をしているのは、雨承零児……つまりは、龍輝の兄貴である。

 今年でもう二十歳であり、昔と違って落ち着きも出ている。

 また、気術士としてもかなり頭角を表していて、今では十席直属の副官の一人になっている。

 副官は複数いるが、その中から次期十席が出ることが多いため、かなりの地位になる。

 まぁ、それでも最終的には十席の誰かと戦い、その地位を奪い取らなければならないために大変だが。

 ここはしっかり実力勝負なのが、婆娑羅会という組織が他の気術士組織とは大きく異なる点だな。

 その気風は俺たちのような下っ端にまで波及していて、なんだかんだ言っても腕っぷしの強いやつほど発言力が強い。

 とはいえ、腕があれば横暴しまくってもいいわけでもないのだが……ただそこは微妙なところだな。

 俺の周りではそういうのはいないが、他の十席のところだとそういうのもいるからだ。

 ちなみに、俺たちは第九席の部下になる。

 また、十席の席次は別に実力を表しておらず、全ての十席は対等とされている。

 そのため、建前上、婆娑羅会全体の方針を決めるときは、十席全ての意見の一致が求められる、とも。

 ただここのところは、それでは実際に回らなくなるため、ある程度の妥協とか圧力の掛け合いとかはあるみたいだが。

 俺はまだ、十席が婆娑羅会の方針を決める《十席会議》には付き添いであっても参加したことはないため、その辺の機微はなんとも言えないところではある。

 まだまだ下っ端なんだよな……。


 まぁそれはいいか。

 

「ところで零児さん、結局今日のこれは一体何だったんですか? 妖魔が多く出現してるから急行せよとしか言われてなくて、実際に来てみたら激戦で驚いたんですが……」


 俺たちの直接の上司である十六原いざはらが尋ねる。

 すると零児が言う。


「あぁ、それなんだがな……まだはっきりとはしていないが、お前らの中には合成鬼と戦ったやつもいるだろう? あれは自然発生する妖魔とは違って、人の手が入らないと生まれない、禁術の産物だ。つまり、邪術師の関与してる可能性が高い」


「邪術師というと……《陽炎かげろう》とか、《浮舟うきふね》とかの連中ですか」


 どちらも比較的知られている邪術師集団だ。

 古くから正統な気術士との争いを繰り広げていて、それでも滅びないのだから相当な集団である。

 これに零児は、


「有名どころだとそうだが……ただそのあたりの奴らはマークされてるからな。これだけ大規模な合成鬼の集団を用意していたら、その動きには気づけるはずだ」


 と否定的だ。

 十六原は、


「では……」


 とさらに尋ねると、零児は難しい顔で言った。


「俺たちの知らない新しい邪術師集団が誕生している可能性もあるってことだ。それも、かなり隠密性に長けた、な……」


 これにはその場にいた十数人の気術士たち全員が驚く。

 それを察した零児は、


「まぁ、あくまでも可能性だ。既存の集団が相当な注意を払って今回の事件を起こした可能性も十分にある。ただ、それだけじゃないかもしれない、という可能性は常に頭に入れておいてくれ。じゃあ、解散!」


 そう言ったのだった。


 *****


「……おう、お前ら。今日はだいぶ気張ってくれたらしいな。他の奴らから報告受けてるぞ」


 気術士たちが解散した後、零児が俺たちのところにやってきて、そう言った。

 俺たち、つまりは俺と龍輝、それに咲耶のところだな。

 十六原はすでに帰っていった。

 婆娑羅の気術士の任務は、現地集合現地解散が多いので、結構緩い。

 ただ、俺たちについてはまだ小三であるから、それでは森の中に小学生が放置される、みたいな感じになってしまうので、零児が送り迎えしてくれることが多かった。

 彼がいない時は十六原が、ということになる。

 今日は彼は用事があるらしいから、零児が担当なのだな。

 子守をさせて申し訳ない気がするが、こればっかりは仕方がない。

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