第88話 卒園
「……卒園した後も、皆さんの人生は続いていきます。何か困った時、寂しくなった時は、ぜひ遠慮なく園を訪ねて来てください。私たちは、いつでも皆さんのことを待っています」
日方園長がそう言って園長挨拶を締めた。
今日は、幼稚園の卒園式である。
俺たちも、もう六歳となり、四月からはついに小学生となる。
幼稚園ではいろいろなことがあったが、こうして卒園の日を迎えると感慨深い気分になる。
咲耶も龍輝も、だいぶ気術士としての実力がついて、自分の真気の圧力を抑える方法を完璧に身につけたため、他の園児から微妙に避けられるようなことも、もうなくなっている。
そのため、意外にも今の俺たちには友人が結構いる。
入園当初とはまるで状況が違っているわけだ。
それでも仲良くなった彼ら彼女らから、妙に一目置かれてる感はあり、相談事などをされることも多かったが、それは悪いことではないだろう。
中には妖魔関連のものと思しき相談もあったりして、家に遊びに行くという体で妖魔退治に出向いたこともある。
六歳にしてすでに気術士としてある程度の仕事を経験しているなんていうのは、気術士界広しといえども俺たちくらいしかいないだろう。
もちろん、何かあったら困るのでしっかり俺が補助しながらだったが。
美智にもそういう時はしっかりと報告をあげているので、ホウレンソウも完璧である。
「……やぁ、君たちも卒園かぁ……。小学生になったら
卒園式を終え、教室まで戻ってくると、夢野先生がそう言った。
夢野先生は本来、婆娑羅会所属の気術士であり、幼稚園に勤めているのは出向みたいなものらしい。
園長が婆娑羅会の十席と親交があって、そこから送り込まれたという。
そうなった原因については彼女は話したがらなかったが、なんとなく表情から察することができるものはあった。
だから、あまり深掘りはしないように気を遣ってきた。
俺も、咲耶と龍輝もだ。
そしてそんな俺たちの気遣いを先生が理解した時、「君たち子どもらしくしてもいいんだからね?」とか言っていたが、まぁ根掘り葉掘り聞き過ぎるべきことではないだろう。
いつか大人になった時に、話してくれればというくらいだ。
そんな彼女が俺たちをとにかく婆娑羅に勧誘するようになったのはこの一年ほどだ。
どうも、そろそろ彼女は婆娑羅に戻るつもりらしい。
というか、本当は一年くらいで戻るつもりだったようだが、俺たちがいるからと伸ばしていたようなのだ。
俺たちが卒園するタイミングがちょうどいい機会ということだな。
「入っても構わないのですが、流石に咲耶は難しいのでは……」
俺がそういうと、夢野先生は、
「北御門の当主になってしまったら無理だろうけど、それまでは別に問題なかったはずだよ。色々経験も積めるし、悪くないところだからちょっとだけでも考えてほしいなぁ」
と言う。
咲耶はこれに、
「私は武尊様が入られるのでしたらどこへでもついて参ります」
と断言する。
実のところ、俺はそのうち婆娑羅会に入れてもらおうと考えていて、それは、北御門だけでは得られない情報を得たいから、というのと、やはり実戦経験を多く積みたいからだ。
高森の家に入る依頼とかでも構わないのだが、それは主に父上に入るものだからな。
個人でとなると婆娑羅に入った方がやりやすい。
そしてそんな考えを口にし始めると、咲耶が、では私もとなったのだ。
もちろん、龍輝も同様で、
「おい、二人とも俺を忘れるなよ? 俺もついてくからな!」
そんなことを言う。
「君たち三人が入るなら、うちも大歓迎……なんだけど、一応試験みたいなものはあるから、そこは受けてもらう必要があるよ。誘っておいてなんだけど。まぁでも君たちが落ちるとは全く思えないけどね……
本来はどれだけ若くても中学生になってから受けるようなものだけど」
「試験内容は……」
俺が尋ねると、夢野先生は言う。
「筆記と実技だけど、実技重視だからね。筆記は基本的な気術に関するそれがあれば何も問題ないから。君たちに私が幼稚園で教えたくらいの知識があれば、余裕だよ」
「なら、大丈夫そうですね」
「そう言ってるんだよ……というわけで、まぁいつでもいいけど、ぜひ婆娑羅に来てね!」
「はい!」
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