第85話 戦闘

 結界で覆われているため、外部の音はあまり聞こえない。

 しかし、それでは困るため術式を形成し、外からの音を拾えるようにする。

 色々力は隠しておきたいとは思ったが……流石に安全を犠牲にしてやることでもないしな。

 そして、同じ一門の味方の身を危険に晒してやることでもない。

 俺が気術を形成したことに気づいたらしい関田さんが、目を見開いて俺を見て、


「……何を……!?」


 と言ってきたので、俺は答える。


「音を拾えるようにしました」


「しかし、車と、私の結界が……」


「空間系気術で繋いであるので……具体的な術式は説明しても難しいと思うので、今は気にしないでください」


「君は一体……いや、それは後か。外の音を拾えるのはありがたい」


 そして、外から声が聞こえてくる。

 トラックの真正面に立っているのは、大柄の男だ。

 かなり太っているようで、鈍そうに見えるが、邪術師であっても、気術を修めている者の敏捷性や腕力というのは見た目通りとは限らない。

 だから油断して良いことにはならない

 最も、そんなことは辰樹にも分かっているだろう。

 彼自身も身体強化系の気術を既に編んだ上で相対しているようだ。


『フォッフォ! どうやらここが当たりだったようですな!!』


 と、太った男が言う。

 妙な笑い声が深いに響いた。

 それに辰樹は言う。


『当たりとは?』


『勿論、ここに……いるのでしょう? 北御門のご令嬢が! うーん、私としては西園寺の方が好みだったのですが……』


『……当てずっぽうか』


『その点については致し方なく。あのホテルから出る車全てに隠蔽がかかっておりましたからね! 流石は四大家総揃いの催し。警備についても万全を期しておられた……が、手当たり次第に追いかければ良いだけの話。そして私は当たりを引いた! ファッフォ!』


 まぁ、賢いと言えば賢いのだろうか?

 当てずっぽうとて戦術の一つだろうしな。

 しかしその為には相当な人員が必要だ。

 邪術師はそれほど数が多いわけではない。

 通常の気術士すら少ないのだから、そこから離れたいわゆるはみ出し者の数は必然、それよりも少なくなる。

 しかも彼らは自分自身の欲望に正直なものだから、まとまりというのが出来にくい。

 したがって、組織的に動くというのが苦手だ。

 組織があったとしても、おのおのが好き勝手に動いて自滅することも良くある。

 もしかしたら、今回のこれも、そのようなものなのかもしれなかった。

 何せ、各個撃破されてしまう可能性が高いしな……。


『むしろ君は外れだと思うけどね』


 そう言って辰樹が構える。

 すると手元に弓が唐突に出現した。

 あれは……気導具だな。

 気術を使って作り出す、武具の一つ。

 術具と似ているが、術具はしっかりと物理的に存在しているものを主に指す。

 しかし、気導具は、自らの真気のみで作り出すもの。

 あれがあるから気術士は術具を軽視しやすい。

 ただ本質的には術具も気導具も同じだ。

 威力が桁違いなだけで。


 実際、それを見た太った邪術師は目を見開き、


『フォッ!? そ、それは……まさか、時雨の……』


「おや、君程度でも知っていたのかい。まぁ、冥土の土産に受けてみるがいい。《天時雨あましぐれ》」


 辰樹がそう言って軽く弓を引き絞り、話すと、彼の周囲に数十の光の矢が出現した。

 そしてそれは太った邪術師に殺到し……。


『フォッ……馬鹿な……』


 全てが突き刺さり、そのまま傾いでいく。

 そして、パンッ、と弾けるように消えてしまった。

 それを見て辰樹は、


『……あくまで形代か。まぁそうだろうね』


 とつぶやき、そして戻ってくる。

 車のドアを開けて、


「やぁ、ごめんごめん。待たせたかな」


 戦っている最中の無表情とは違った笑みを浮かべてそう言う。

 それに俺と咲耶は首を横に振り、


「大丈夫です。でも凄かったです! 気導具!」


「あの変な笑い方する奴、一発でしたね」


 と言うと、それで辰樹も会話を聞いていたこと察したのだろう。

 関田さんに視線を向けて、


「……どういうこと?」


 と尋ねる。

 関田さんは、


「……それが……」


 と一連の流れを辰樹さんに言うと、彼は頷いて、


「……そんなことが既に出来るのか。武尊くん、君は……」


 と目を見開いていた。

 だが、


「美智さまは知ってますよ」


 というと、すぐに、


「あぁ、そうなのかい。なら僕が気にすることでもないのかな……。出来ればある程度、話を聞きたいけれど……」


「話せる範囲なら。さっき、龍輝についても途中でしたし」


「おぉ、そうか。それは嬉しいね。じゃあ、帰る道すがら聞こうか」


 そう言ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る