第83話 帰路

 さて。

 そろそろ宴もたけなわと言ったところかな。

 会場の中、周囲を見るに徐々に人が減っていっていることが確認できる。

 一般人客から会場を去って行っているのだろう。

 その後は、別会場に、という感じかな。

 俺たちのところにも、美智と景子がやってきて、


「……麗華。行くわよ」


 とまず景子が呼びに来た。

 それに麗華は、


「分かりました! じゃあ二人とも、また今度ね! 絶対よ!」


 そう言って、景子に連れられて去って行く。

 俺も咲耶も彼女が見えなくなるまで手を振り続けた。

 結局なんだか普通に友達になってしまったな。

 最初の印象は微妙だったが、悪い奴ではなかった。

 むしろ、景子の被害者に近いし、親近感すら感じた。

 咲耶も麗華には本当に友情を感じたらしく、


「また近いうちに会いたいです」


 と本気で言っていた。

 西園寺と北御門の令嬢同士なのだから、会おうと思えばいつでも会えるだろう。

 こういうパーティーみたいな機会も沢山あるだろうしな。

 俺もまた、咲耶に金魚の糞よろしくくっついていけば同様だ。

 

「西園寺の孫娘と二人とも、仲良くなったのね?」


 と美智が意外そうな顔をしていたが、軽く事情を説明すると納得していた。

 

「全く、景子お姉様にも困ったものだわ……」


 とため息はついていたが。

 それから、俺が、


「これから帰宅ですか?」


 と尋ねると、美智は、


「あぁ、それなのだけど、私はもう少し参加しなければならない催しがあるから、二人は先に戻っていてくれるかしら。時雨の辰樹ちゃんをつけるから、安全については保障するわ」


 辰樹とは、龍輝の父親の。

 警備の責任者っぽかったが大丈夫なのかな?

 まぁ、そういうのは普通、欠けたときのことを考えて代理となれる者もいるから、問題ないのか。

 ちなみに美智が参加しなければならない催しとは、あれだな。

 重蔵が言っていた人材交流についてとかなんとかってやつかな。

 だとすれば、それにかこつけて重蔵が俺たちのことも言うだろうと思ったのでそれも伝えておく。

 すると美智は少し目を見開いて、


「あの人は景子お姉様と違って、読めないわね……。思いつきだからかしら? まぁ話は分かったわ。流石に子供相手にどうこうするタイプでもないから、危険はないでしょう。それでも護衛はつける必要があるけど、許可することにするわね」


 それでいいですね、お兄様。


 そう美智の瞳が俺に告げていた。

 俺がそうなっても構わないというか、むしろそうなってほしいとすら思っていることを察しての言葉だろう。

 俺が肯定の意味の視線を返すと、美智も頷いて、


「じゃあ、そういうことだから……あ、来たわね、辰樹ちゃん」


 そう言って俺たちから視線をあげる。

 そこには、会場に入るときに見た、白髪の美青年、辰樹がいた。


「美智様……。ご令嬢と許嫁の方の護衛をということで、承知しました。警備の方はここからは兄が主導しますので……」


 そう言って頭を下げる仕草は優雅で、やはり龍輝とは正反対の気質を感じる。

 ただ体内に感じられる真気の荒々しさは、龍輝と同じ性質だな。

 やはり親子ということなのだろう。


「分かったわ。二人をよろしくね」


 美智はそう言って、ひらひらと手を振ってその場を去って行く。

 それから辰樹は、


「……では、参りましょうか、お二人とも」


 そう言って、俺たちを車止めまで先導し始めた。


 *****


「……運転もされるのですね」


 車に乗りながら、咲耶が運転席に座る辰樹にそう言った。

 助手席には女性の気術士が一人座っているが、そちらの方が辰樹より実力が低いのは明らかだ。

 こういう場合、そちらの方が運転を担当しそうなものだが……。


「元々好き、というのもありますが……やはり反射神経は私の方が良いもので。何かあったときのために私が運転しております」


 と返ってくる。

 それにしても咲耶に対してはともかく、俺が口を開いても敬語なので若干居心地が悪い。

 なぜなら、辰樹は龍輝の父親なのだから。

 それは咲耶も思ったのか、


「あの……」


「なんでしょう?」


「敬語ではなく、普通に話していただくわけには参りませんでしょうか? 龍輝のお父様だと思うと、どうしても、違和感が……」


 そう言った。

 すると辰樹は、


「……なるほど、確かに……。でしたら、非公式の場ではそのように」


 そう言って頷く。


「今は……?」


「非公式の場、ということにしようか。関田、お前も見逃してくれ」


 辰樹が助手席に座る気術士にそう言うと、彼女も頷いて、


「はっ、承知しました」


 とキビキビとした声でそう言った。


「じゃあ、雑談がてらまず一つ……二人とも、龍輝と仲良くしてくれて本当にありがとう。あの子も毎日幼稚園が楽しそうで、親として安心してるよ」


 辰樹がそう切り出した。

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