第81話 会話
「……あれは?」
麗華が首を傾げてステージ上を見ていた。
そこでは、各四大家から出された気術士がいて、気術を披露していた。
ちょっとしたデモンストレーションというわけだな。
こういう出し物もしなければ、会もだれるというものだ。
今日来ているのは気術士だけではなく、少しだが一般人も混ざっている。
一般人と言っても、政府高官とか、どこかの企業の重役とか、そういうある意味では一般人ではない人々ばかりだが、気術士ではないという意味では一般人だ。
そんな彼らからすれば、気術を間近で見られる機会というのは少ない。
だから結構、みんな視線に力が入っていた。
今の時代、気術士の存在は大っぴらにされてはいないものの、しっかりと各家とも一般人相手に商売しているようだからな。
そういう意味でも必要な催しなのだと思われた。
ところで、麗華が気術士の子供であるのに、あれは、と尋ねた理由は簡単で、彼女が知っている気術は基本的に西園寺のものに過ぎないからだ。
もちろん、年齢を経るにしたがって、他家の気術も学んでいくものだが、最初に学ぶのは自分の家の気術であるのは言うまでもない。
だから他の家の気術が珍しいというか、見たことがないのだろうな。
ステージ上の気術士もそういう気術をあえて選んでいるようだし。
自分の家門の強みを見せているわけだ。
今、披露されている気術は……。
「あれは、東雲家の霊剣術ですね。武具に真気を通し、強化するやり方をさらに洗練させ、独自の手法にまで昇華したもの。あの技術を身につけた剣士は岩をも軽々と切り裂くと言われておりますが……」
「岩を……!? すごい!」
「ですけど、岩を破壊するくらいのことは、高位の気術士であれば、どこの家の者であっても出来ることです。そこまでおどろくことではないかと」
「そうなんだ……うちのお祖母ちゃんも出来るのかな……」
「西園寺の当主様であれば、軽々とするでしょう。ただ、剣術でそれを可能としているかはなんとも言えませんが」
西園寺家の強みは符術や巫術、それに呪術だ。
そのため、もしも岩を破壊するというのであれば、剣でというより、術を使ってということになるだろう。
もちろん、景子なら余裕でこなすだろうな。
かつて俺が見たことがあるものでも、火炎やらかまいたちやらを引き起こして、それを実現していたのだ。
あの頃よりもずっと洗練された実力を持つに至っているだろう今も、当然それをやりこなすに違いない。
しかしそれにしても……。
「……ゆっくりやってるのかな? 少し遅いような……」
東雲の剣術を見て、俺がふとそう呟くと、麗華がおどろいたように、
「ええっ!? 凄く早いわよ!?」
と言ってくる。
続けて咲耶も、
「……遅いとは私にも思えません。もちろん、見栄はしますが……成熟した腕の気術士だと思います」
と続けた。
そうなのか?
うーん、昔の東雲家の剣士の剣はもっと速かったような記憶があるんだけどな。
「いや、悪い。俺の気のせいかもしれない……」
考えてみれば五十年以上前の記憶だしな。
ただの記憶違いかもしれない。
そう思っての言葉だったが、
「……ふむ。お前はあれを見て遅く見えるのか……才があるのかもしれんな?」
と、後ろから突然話しかけられる。
人が近づいていたのは感じていたが、わざわざ子供のひそひそ話に聞き耳を立てているとは思っていなかったので、気にしてなかった。
それに、なぜかその人物は自らの真気を隠していたから……いや、威圧感を与えないためか?
さっき会ったときはそれなりに真気を出してた癖にややこしいことをする……。
昔のこいつならしなかったことだ。
そう思って振り返ると、そこには重蔵が立っていた。
横には孫である薙人もいて、ただ、大分、重蔵に絞られたのか大人しくしている。
真気も押さえ込まれているが……これは重蔵にやられているだけだな。
自分の力ではない。
そこまで考えたところで、
「……才ですか?」
俺は重蔵にそう話しかける。
普通なら四大家のトップになんて不敬扱いされてもおかしくないのだが、今はこいつから話しかけてきたのだし、俺は子供だ。
問題ないだろう。
実際、重蔵は怒ることもなく、俺の言葉に頷いて答えた。
「そうだ。剣術の才……かどうかは分からないが、武術系の気術の才能がありそうだ。身体強化と、そして見切る目がなければ話にならんからな。身体強化は気術を扱えれば大抵のものはある程度までなんとか出来るが、目は才能だ。出来ない者には永遠に出来ん……その点、お前はあれが見えるのだろう」
「そうですね……なんとなく」
「なんとなくでも大したものよ。北御門の姫も見えるようだし、これは中々……」
うーん、なんか変な目のつけられ方をしまったかもしれない。
俺はそう思った。
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