第79話 対話
「……はぁ、そうなんですね……」
俺があんまり力の入ってない言葉でそう返答すると、麗華は不機嫌な顔になり、
「もっと驚きなさいよ!」
などと言ってくる。
だがこの子が四大家の子供だろうということは予測できていたことだしな。
驚くような話じゃない。
だが、話には乗ってやるか。
「どうしてですか?」
「それは、気術士の家で一番偉い家の子供だからよ!」
「……そうなんですね」
「だから……!!」
なるほど、麗華はかなり甘やかされて育てられているのだな、とそれで分かる。
同じ四大家でも、子供の育て方は大分違うようだな。
北御門家は咲耶を見てれば分かるがかなりの詰め込み型というか……いや、美智と咲耶が異常なだけで、前世の俺はそこそこ厳しく、ぐらいだったか。
東雲家……先ほど見た薙人については、重蔵の振る舞いを見る限り、甘やかしているというよりは、体力有り余ってどれだけ言い聞かせても聞かない感じなのが分かる。
最後には普通に腕力で言い聞かせていたわけだし、お坊ちゃま教育をしているかというと、していないだろう。
重蔵もそういうことするタイプではないだろうしな。
で、西園寺家はこうだ、と。
まぁ西園寺家は昔からそういうところがある。
それは景子を見ても分かることだ。
ところどころ鼻につくようなプライドの高さがあるんだよな。
前世の俺は、それを気術士の家のトップに立つ家の人間としての誇りから来るものだと最後の最後まで考えていたが、結局あれは単純にプライドが高いだけだったのだろう。
ただ、隠すのはうまく、美智にはそういうところを見せてはいなかったようだが。
今はそうでもなさそうだけどな。
つまり、この麗華も成長すると景子みたいな女になりそうなわけだが……。
流石にあんなのにはなって欲しくない。
いずれ復讐する相手の孫だから、殺すか殺さないかの選択もあるが……そうだな。
景子みたいになったら、殺した方がいいのかもな。
でも今ならまだ道を間違えないで済む可能性もある。
遊びがてらら、性格をマシに矯正してやるのも悪くないか。
失敗したら処分すれば良いし。
そこまで考えて、俺は麗華に言う。
「西園寺家は確かに偉い家ですけど、麗華さんが偉いわけじゃないですよね?」
「えっ?」
「違うんですか?」
「わ、私も偉いのよ」
「どうして?」
「それは……偉いものは偉いの!」
「偉い理由を聞いてるんですが……」
そうやって質問攻めにしてみると、麗華は、最後には涙目になってしまった。
そこで咲耶が、
「その辺りにしてはいかがですか、武尊様」
と取りなしてくる。
「そう? でも気になったから……」
「気持ちは分かりますが……ほら、麗華さん。涙を拭いて」
そう言ってハンカチを袂から取り出し、拭いてあげる咲耶。
麗華は、
「えっ……偉いんだもん……本当だもん……」
としゃくりあげながら言う。
流石に子供相手に意地悪が過ぎたかもしれない。
景子の直系だと思うとなんか歯止めが……。
これは悪かった。
謝るか、と思ったところで、
「四大家が偉いとするなら、それは、気術士として妖魔を倒すからです。そうですよね」
と咲耶が麗華に言う。
麗華は、擁護されたと思ったからか、それにすぐに頷いて、
「そうなのよ……妖魔を倒すから……偉いの……!」
と言い出した。
咲耶は畳みかけるように、
「であれば、妖魔をまだ倒せていない私たちは、偉くないです。四大家の子供であっても」
と言い、そこでやっと麗華は咲耶が何者か気になりだしたようだ。
「あんたは……?」
「私は北御門咲耶。私も麗華さんと同じ、四大家の子供です」
「そうなの……それなのに、偉くないの?」
「ええ。さっき言ったでしょう。覚えてますか?」
「覚えてるわよ……妖魔を倒すから偉いんでしょ……!」
「その通りです。ですから、偉いのだと胸を張れるためには、それが出来るように強くならなければ」
「……そう、ね……」
「修行はされてますか?」
「……まだちょっとだけ……」
「でしたら、一生懸命頑張りましょう。妖魔を倒すためには強くならなければ、強くなるためには修行に手を抜いてはいけません。麗華さんも、私も」
「……咲耶はいっぱい修行しているの?」
「それはもちろん。時間があればずっと真気を練っていますし、気術の勉強もしてします」
「ずっと!? 嘘でしょ!?」
「本当です。でも、それは四大家の子供なら、当たり前です。だって、偉くなるためですから」
「偉くなるために……頑張るのが当たり前……」
「そうです。ですから、麗華さんも頑張りましょう」
「……分かった。頑張る」
「良かったです。では、お友達になっていただけますか? 修行仲間として」
「お友達……」
「嫌でしょうか?」
「ううん……いたことないから……嬉しい」
「では、お友達です」
そう言って咲耶が差し出した手を、麗華が掴む。
……凄いな。
すぐに仲良くなってしまったぞ。
俺は深くそう思った。
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