第78話 西園寺
ステージでのスピーチが終わり、一旦、歓談の時間となった。
俺と咲耶は、美智の後ろをついて回る形で様々な人と挨拶をすることになった。
ただ、そうは言っても一番印象に残る人物は決まっていて……。
「……あら、美智。こないだ振りね」
そう美智に話しかけたのは、俺の復讐相手の一人、西園寺景子だった。
こうやって近くで見ると、その美貌が際立って見えるのがむしろ腹立たしい。
やはりどう見ても二十代くらいにしか見えず、実年齢を知っているこちら側からすれば、化け物と言いたくなる。
若作りとかのレベルじゃないからな。
確実に尋常ではない方法によるものだ。
それが普通の気術に属するものか、そうでないものなのかは分からないが……。
「景子姉様。お久しぶりです」
美智がそう言った。
そういえば、美智は昔から景子にはこの呼び方だったな。
別に血が繋がってるとかそういうわけではないが、景子は少なくとも当時、表向きには俺に対して優しかった。
だから美智も慕ってそういう風に呼んでいたのだ。
今はどうなのかと言えば、もはや呼び捨てしたいくらいの気持ちだろうが、急にそんなことをしたら怪しいことこの上ないからな。
まぁ、どれだけ怪しまれても、俺が転生しているという事実には辿り着きようもないだろうが。
「……それより、考えてくれたかしら。こないだの話」
景子がそう言うと、美智が、
「あぁ、茶会にいらっしゃる方々に新しい符を披露するというお話ですか? しかし、茶会はあくまで茶の湯を楽しむ場ですから……」
「そんなこと言わないで、少しで良いのよ。貴方の主催する茶会には、家の垣根を越えて多くの気術家の奥方達が出席するでしょう? いい宣伝の場になると思うのよね……」
景子の家は西園寺家。
主に符術を得意とする家であり、今も商売はそっち方面が主体であるようだ。
符術は術具の一種であり、符に気術陣を描くなどすることによって、気術を封じ込めることが出来る技術である。
しかも、真気を注ぐことも出来るので、気術士でなくとも効果を出せるようにも出来るため、色々な場面で使いようがある。
俺を殺したときに三人で逃げたときの転移符も、西園寺家の人間である景子が用意したものだろう。
転移符は貴重であり、かつ高価でもあるからそこまで数の用意できるものではないが、西園寺家の人間なら間違いなく可能だからだ。
そんな西園寺家であるが、符の売り先は多くが気術家になるのは当然の話だ。
お守りとして一般人に売ることもあるようだが、最も活用するのは気術士であるのは間違いない。
そのため、そんな気術士たちに売りつけるための営業活動に余念がないのだろうが……あまり品はないな。
美智は景子の言葉に色々と理由をつけてのらりくらりと交わし続けている。
俺と咲耶は当然、この間、手持ち無沙汰になったが、それならそれでむしろ楽だと二人で話していた。
そんな俺たちに、
「……ねぇ、あんたたち」
と声がかけられる。
振り返ってみると、そこには同年代の少女が立っていた。
高価そうなドレスを纏っていることから、名家の令嬢であることは明らかだ。
そして、この会場にいる名家の子供となると、ほぼ限られる。
四大家のどれか、ということになるが……。
「はい、なんでしょう」
俺がそう言うと、その少女は言った。
「退屈なの。何か面白い話をして」
急な命令と来た。
まぁ、この会場が子供にとって退屈なのは理解できる。
大人達は大人達の交流に夢中で、子供は放置気味だからな。
気術士としての能力でもって、それでも迷子にならない、という確実な自信もあるだろうから、かなり遠くまで行っても気にしないのだろう。
実際、薙人の時も近くに重蔵はいなかった。
「そう言われましても……」
さらに俺が言うと、少女は、
「何よ。さっきまで楽しそうに話してたじゃない」
と文句を言う。
確かに咲耶とは楽しく話していたが、彼女は幼稚園の同級生で、ずっと一緒にいるからこそ話す内容も沢山あるのだ。
しかし、この少女との共通の話題となると……。
なんだろうな。
迷ってしまって、咲耶と目を合わせるが、彼女も何か話してあげてもいいのでは、というような視線を向けてきたので少し努力してみることにするか。
というか、そもそもあれだ、名前を聞くところからか。
「ええと……お名前は?」
「えっ、私のこと知らないの?」
驚いて目を見開いたので、俺は、
「知らないです」
と返答すると少女は言った。
「私は西園寺麗華。お祖母様は西園寺景子よ!」
胸を張る少女……麗華の顔立ちをよく見てみれば、確かにかつての景子の面影がある。
しかし、お祖母様、か。
あの二十くらいにしか見えない女の孫と言われても、誰も信じないだろうな。
娘、と言われた方が納得できる。
まず俺はそう思った。
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