第77話 各家のトップたち
『……この四大家の友好が結ばれてから早、四百年の月日が流れ……』
壇上で、四大家のトップ四人が並び、その中で美智が代表してスピーチをしていた。
他の三人も、これに続いてスピーチするらしい。
横においてある式次第にそう書いてあるから分かる。
基本的にこのスピーチのあと、歓談の時間が設けられ、多少の見世物が壇上で行われて、閉会、となるようだ。
その後に、細々とした催し……家毎とか、商売関係の話をするための小さなパーティーをするために会場を移っていくらしい。
言われてみると、ホテル前にあったどの会場を誰が貸し切る、みたいな表示には、ほとんど四大家関係の企業などが並んでいて、ホテルごと貸し切っているような感じだったな。
どれほどの金がかかっているのだろうかと思ってしまうが、それくらい余裕で出来る程度には気術士は儲かっているというわけだ。
妖魔関係の問題を処理できるのは、日本においては気術士のみ、であるから、どんな人間であっても依頼せざるを得ず、またその依頼は高額になるのは当然のことだった。
気術士だって命がかかっているわけだし、負けるわけにもいかないと。
「それにしても、四百年か……」
俺がぽつり、と呟くと、横にいる咲耶が、
「厳密には、北御門家の歴史は千年を超えるらしいですが、他の家と並び、四大家、と言われるようになってからは四百年ほどだというお話ですね」
「みたいだな。他の家はそれより前はどうだったんだろ」
一応、前世でも学びはしたが、主に北御門家の歴史を学んだのであって、他の家についてはそこまで詳しくはなかった。
しかし、咲耶は思ったよりも知っているようで、
「在野の家としては存在していたようです。北御門の金魚の糞……というと品がないかもしれませんが、そのようなものだったと」
これについてはひそひそとした音量を下げた声で説明した。
他の家もいる中で流石にこの言い方はまずいと理解しているからだろう。
ただ、内容的には以前、美智から聞いたことと符合するな。
やはり、北御門こそが気術士の本家本元、ということなのだろう。
まぁ今は他の家だってちゃんと四大家と呼ぶに十分な権勢を誇っているので、昔の話だと言われたらそうなのかもしれないが。
「どんな風に今の形になっていったのか気になるところだが……」
「それは私も思います。いずれ調べてみたいところですが、その辺りの資料については我が家にもあまりなくて。他の家にならば残されているのかもしれませんね」
どうだろうか。
自分の家の恥は消しておきたいと考えるのが人間の本能だろうしな。
ほぼなくなっているか、煌びやかな嘘でも書いた書物でも見つかりそうな気がする。
それは言い過ぎか?
なんにせよ、普通に見られる場所にはなさそうだな。
いずれ、奴らに復讐した暁には、その辺の資料を見つけて公表してやりたいものだ。
そうすれば家の権威すら地に落ちるだろうし。
「お、そろそろ終わるか」
「そのようですね」
美智のスピーチも終盤に入ってきて、
「……と、結ばせていいただきます。ご静聴、ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
次に話し出したのは、西園寺景子だった。
驚くべきはその容姿である。
かなり若い。
いや、二十代でも通用しそうな見た目をしていた。
流石に気術士が若作りになりやすいといっても、あれは度を超している。
どうやってあんな年齢を保っているのか……。
少なくとも西園寺の秘術、とかではないだろうが……。
「今年六十九になられるとは思えませんね」
咲耶がそう言った。
「全くだな。いっそ異様ですらあるが……言われなければただの若い女か。いや……目が違うな」
若い女だ、と一見思えなくもないが、その瞳に宿るのは長年生きてきた者特有の、老獪な光だった。
当時から色々と考えるのが得意だった女だったが、それに磨きがかかっているということだろうか。
だとすれば、面倒くさいことこの上ない。
西園寺の家は符術に強く、それが為にそういった思考能力が必要とされるわけだが、当時から罠などを張るのもうまかった。
あれに最初に手を出すのはいい手ではないか……?
そんなことを考えているうち、スピーチは終わり、次の人物がマイクの前に立つ。
三番目は南雲慎司だった。
彼については年齢相応に年老いているな。
御年七十にもなれば、それはそうかという感じだ。
俺の復讐相手三人の中でも最も年かさで、それに見合った余裕も持っている男だった。
それは今でも変わらないようだ。
穏やかな語り口には優しさのようなものも感じられるようですらある。
実際にはそんな奴ではないが。
俺はあれの本性をよく知っているから分かる。
ただ、他の人間からすれば、ただの好々爺にしか見えないのだろう。
全く、腹立たしい話だと思った。
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