第75話 再会
親睦会の会場は、都内にあるホテルで行われるようだ。
実際、車が止まったのはまさにホテル前だからな。
次々と車が止まり、降りていく人々の多くが気術士であることがその事実を証明していた。
数の少ない気術士が、一般の施設にこれだけ偶然集まることはありえないからだ。
「さぁ、中に」
美智の言葉に頷いて、俺と咲耶はついていく。
周囲には美智と咲耶を護衛するための北御門家の高位気術士たちが十人ほどいた。
その中には龍輝の父親である辰樹もいる。
まだ二十代ながらも、真っ白な髪の毛が異様だ。
ただ顔立ちは端正で、動きも柔らかい。
龍輝とは正反対の雰囲気を持っていて少しばかり意外だった。
ちょっと会話したいな、と思わなくはないが、彼は今任務中である。
黒スーツ姿で耳にはイヤホンがついており、他の護衛達にも指示をしているようだから、邪魔は出来ないだろう。
おそらくホテル周りにもSPよろしく護衛がいるのだろうな。
ここを妖魔に狙われれば大問題だろうし、当然か。
そんなことを考えながら進むと、ホテル大広間の前に辿り着く。
そこにある長机には受付と思しき女性がいて、芳名録に美智が名前を書いていた。
俺と咲耶もかな、と思ったが、美智が代わりに書いてくれたらしい。
まぁまだ四歳だから、当然か……。
美智の名前を見て、受付の女性が少しばかり緊張していたのがちょっとだけ面白かった。
俺の妹、偉くなったんだなぁ、と改めて感じられて。
やはり北御門一門で集まっているときは、身内であるためか美智に対してもまだそこまで緊張していない人々ばかりだったのだなとも。
受付のお姉さん達は、他家の人間なのだろうな。
懐に術具というか、符の気配があったので、西園寺系だろうと思う。
会場の大広間に入ると、中にはテーブルと沢山の食事が用意されていて、また入ると同時にウエイターに飲み物を渡される。
立食パーティー形式らしい。
そこまで肩肘張った感じで顔を突き合わせると言うよりは、会場を歩きながら色々な人と話していく感じなのだろうな。
前世の時はもっと格式張っていたが、時代が変わったと言うことだろう。
大広間の前方にはステージが設けられていて、真ん中にはマイクが置いてあることから、あそこでスピーチでもするのだろう。
四大家のトップ達が。
ちなみに、会場に入るときに気づいたが、やはり結界が施されているようだ。
南雲家の仕事だな。
外部からの攻撃や侵入を避けるためのものだろうが、それ以外にも会場での会話を外に響かないようにするためだろう。
気術士の存在は世間には大っぴらにはされていないからな……。
実際、ホテル前にあった会場の予約表みたいなところには、デカデカと気術四大家様、などとは書いておらず、《株)NAGUMO》と書いてあった。
南雲家が表向きやっている警備会社の名前だな。
それで会場を取ったのだろう。
結界の設営など考えると、確かに南雲家が取るのが合理的だな……。
などなどと、色々と考えていると、
「……あっ! おい咲耶!」
などと言う声が、響いた。
声の方向を見ると、そこには昔の重蔵によく似た顔立ちの子供が立っていた。
おそらくこれこそが、件の子供なのだな、とすぐに理解する。
「……
「おう。久しぶり。そんなことより、こっちに来い……!」
そう言いながら、薙人が咲耶に向かって手を伸ばした。
その動きは乱暴なもので、これは駄目だな、と思った俺は、薙人と咲耶の間に入る。
「……? なんだお前!」
そう言われたので、俺は名乗ることにした。
一応、美智の顔を見たが、頷いているのでいいだろう。
「咲耶の許嫁の、高森武尊です」
すると、薙人は、
「……っ!? 何言ってるんだ! 咲耶と結婚するのは俺だぞ!」
などと言い出したので、俺は咲耶を胸に抱き寄せ、
「いいえ。許嫁は僕なので……少し離れてください」
そう言った。
すると、薙人は顔を赤くして、
「お前! 俺を誰だと……!!」
と言いながら腕を振りかぶり始めたので、おぉ、やる気かこいつ、と思った俺はとりあえず軽く真気を練り始めた。
しかし、
「……やめておけ、薙人」
そんな声と共に、薙人の拳は上からやってきた大きな手のひらに引っつかまれる。
それでも薙人は振り払おうとしたが、びくともしないようで最後には諦めた。
誰がそれをやったかと言うと……。
「あら、東雲の……お久しぶりですね」
美智がよそ行きの声でそう言う。
言われた方は、
「あぁ、北御門の。久しいな」
そう言った。
こいつこそが、東雲家のトップ。
俺の復讐相手の一人。
東雲重蔵であった。
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