第73話 依頼
「お兄様、今度参加して欲しい催しがあるのですが、いかがでしょうか」
その日、俺にそう言ったのは前世の妹であり、今世では一門の主となる美智であった。
今日、俺は北御門家にやってきており、その理由は表向きには許嫁である咲耶に会うため、本当の目的は美智から少しばかり相談があると言われたからだった。
その相談の内容が、今、美智の言ったそれだろう、とすぐに納得できた。
それにしても催しとは……。
まぁ気術士の歴史は古い。
それこそ本当に遡れば紀元前まで遡れるだろう。
はっきりとした歴史書が残っているのは流石に平安くらいからになるが、それだけに伝統的な催しというのは非常に多かった。
天皇家が調べてみればいくつもの儀式を年中やっているのと同じだな。
で、そんな催しの中の一つに、ということだろうが……。
「なぜ突然? 俺は北御門一門でも下位の家の子供に過ぎないんだぞ。美智に付き添って、みたいなのは不可能だろ」
しかし美智は言う。
「確かにそうなのですが、お兄様は咲耶の許嫁です。咲耶の付き添いとして、という名目でしたら問題なく参加可能ですわ」
「……まぁそうかもしれないが……」
確かにその理屈なら、不可能ではないのかもしれない
だが、この年齢での許嫁、というのは本決まりというわけではなく、あくまでも対外的な言い訳的に用意されるもの、という見られ方がすることが多い。
特にそれが四大家の姫のそれっであるのならば。
つまり、俺がそういう名目で北御門家が出るような行事に参加すると、ふてぶてしい、みたいな見られ方をする可能性が高い。
せめて俺が龍輝くらいの家柄なら良かったのだが……。
それならば割と堂々と参加できる。
前世でも、他の家の子供がそうやって許嫁を連れてくるところは何度も見たからな。
しかしいずれもやはり、上位の家門ばかりだったから……。
そんなことを俺が考えているのを察したのか、美智が申し訳なさそうに言う。
「お兄様にはご迷惑をおかけしますが……今回ばかりはどうぞ譲っていただけないかと」
「いや、別に構わないが……俺が冷たい目で見られるのは昔からそうだしな。ただ、美智がそういうことを言い出すのが意外なだけだ」
美智が望むなら、かつての兄として、なんでも聞いてやりたいと思う。
だが、美智もまた、俺をかつての兄として未だに敬ってくれている。
だからかなり面倒くさそうな話を持ってきたことが今までなく、意外な話だと思ったのだ。
そこら辺の事情について、美智は説明する。
「それなのですが……今度の行事は四大家の交流を深めるための《
「四大家勢揃いのあれか……。咲耶が参加するには幼すぎる気もするが」
《気家親睦会》の歴史は古く、それこそ数百年前から行われていると聞く。
参加者は、四大家の当主と、主要な気術士、それに継嗣などだ。
ただ、咲耶は次期当主ではなく、さらにその次の継嗣である。
年齢も考えると、まだ参加するには早すぎる。
まぁ、親睦会の名前の通り、和やかな会なので別に子供が参加しても問題はないのだが、時として真剣な話し合いがなされることもあるからな。
幼いと言って良い年齢だと流石に参加する必要はないとされる。
それなのに。
「それはそうなのですが、今回は他の家でも孫を連れてくるということなので……。加えて、咲耶に少しばかり執心している子がおりまして」
「執心? って……咲耶が好きって事か?」
「ええ。東雲家の者が……」
「東雲家……あぁ、重蔵のところの。あいつにもやっぱり孫はいるよな」
「ええ。二人おりましいて、片方はいい子なのですが、もう片方がどうも、祖父にそっくりな気性と言いますか……」
「あいつにそっくりか。それはそれは……」
重蔵は腕っ節全振りの男だ。
決して馬鹿ではなく、むしろ卑怯な手段でも使って勝てばいいという、あまり敵には回したくないタイプの腕力重視の男で、しかも実際に強い。
あれに似ていると言うことは、それこそ悪い意味でのガキ大将的な存在なのだろうな、と想像がつく。
「まだ子供ですから、かの人ほどには問題があるというわけでもないのですが、流石に咲耶にちょっかいをかけようとするのは……」
「認められないな。一応、俺が許嫁なんだ」
加えて、本来なら
いかなる意味においても認められない。
「ですので、どうぞご出席をお願いしたく……」
「そういうことなら仕方がないな。だが、流石に傷つけるわけにもいかないし、難しいところだな……」
「そこのところは、高い精神年齢を駆使してなんとかしていだきたく」
「無茶を言う……まぁ頑張ってみるよ」
「ご迷惑をおかけします……」
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