第68話 とりあえずの釘刺し
「しかし、南雲家は妖魔合成なんかして、家業にどうやって役立てるつもりなんだ?」
まだそこについては聞いていない。
これに咲耶は答える。
「南雲家の現在の主な家業は要人警護・護衛ですが……そのために従えた妖魔を派遣もしているらしいのです。おそらくそこに合成妖魔を……」
「へぇ、そんなことを。しかし、いいのか? 妖魔をそこまで大々的に使うのは……」
これは合成妖魔についてではなく、従妖術を使った妖魔派遣についてだ。
妖魔を従える従妖術を使う者は昔──俺の時代にもいた。
しかし、数はそれほど多くはなかった。
理由は簡単で、そもそも気術士は妖魔を倒すものだという基本があるからである。
全ての妖魔を根絶する……それを掲げてやっている商売なのに、その妖魔を従えるなど、矛盾ではないか。
そういう考え方をする者も少なくなく、従って従妖術を使う者は昔から若干肩身が狭かった。
俺としてはどっちでもいいというか、完全に制御し切れてるのなら妖魔を使おうがなんだろうが別に構わないと思ってはいる。
そもそも妖魔と聖獣との区別すら曖昧なのだからな……。
人を害する化生をこそ妖魔と呼んでいるので、そうでなくなった時点で妖魔と呼ぶのもな、とも。
ただ澪なんかは自分のことを妖魔と言ったりするし、この辺りの言葉の定義は曖昧だ。
遙か昔から存在する言葉であり、そこに様々な意味を含めて来たからこその難しいところだな。
そんなことを考えている俺に、咲耶は続ける。
「どちらかというと、黙認に近い扱いのようですから、大々的かどうかは……。ですが、公然の事実でもあるようです」
南雲家は別に他の家に隠していないわけだ。
流石に妖魔合成については隠してはいるのだろうが。
それでも各家のトップ辺りは感づきつつあると。
証拠がないと中々糾弾は難しいだろうが……その辺にそれっぽい妖魔がいるくらいだと、状況証拠に過ぎないだろうしな。
「従妖術が微妙な扱いなのは変わらないか。まぁ、細かいこと言い始めると澪の存在についてもどうなんだって感じがするしなぁ……」
「わしはほれ、聖獣じゃろ? 問題なしじゃ」
「自分で妖魔と言ってるときもあるだろ。本質的には同じ事だ」
「そこはな……人間はその辺曖昧にしてやるのが得意じゃろ」
「確かに。少なくとも、俺は目的を果たすまでは曖昧にしておく」
「ん? 目的?」
そういえばまだ澪には話していないか。
まぁ……。
「それはそのうちな。で、南雲家の妖魔派遣業か。それにしても色々新しいことやってるんだな……。怪しいのは南雲家で決まりか」
もちろん、澪を襲った犯人がいるだろう家が、だ。
「探りますか? おばあさまに協力を願えば色々と分かることもあると思いますが……」
「そうだな……考えておこう。でもあれだぞ。ここまで話しておいてなんだが、お前達二人はあんまり首を突っ込みすぎるなよ。聞けば聞くほどこれって結構まずそうな話だしな」
ちょっと軽く通り魔を探すくらいの感覚でいたが、実際には四大家の根元深くまで関係しそうな話だ。
流石に幼稚園児が率先して参加するような話でもない。
「えっ、ここまで聞いて!? 気になるだろうが」
龍輝がそう言うが、
「それはそうだろうが……とりあえずは大人に任せよう。美智様に話すのは確定だが、俺たちは少し距離を取っておいた方が良い」
「私も同感です」
咲耶は思ったよりも物わかりが良かった。
まぁ彼女は四大家の対立とか微妙な綱引きのバランスの難しさを理解しているのだろう。
どういう四歳児だって感じだが、その頭脳は前世の俺の比ではない。
思い出してみるに、美智も小さい頃からこんな感じだったからな……。
咲耶がこの年にして色々と闇の深そうなことを知っているのは、美智が過去の自分基準で色々と教え込んでいるからだろう。
大丈夫なのかという気もしないでもないが、いざというときは俺が護ろう。
美智もそのつもりもあって咲耶の許嫁に俺を、というのもあるだろうし。
「なんだよ……でも武尊と咲耶の二人がそう言うなら、仕方ないな。あっ、でも抜け駆けとか無しだぞ!」
龍輝も結局、多数決に従った。
いや、俺たち二人が乗り気ではないからか?
やっぱり冷静だよな……。
「抜け駆けって。まぁなんかあったら報告はするよ。それでいいだろ?」
俺は澪のために犯人捜しをしなければならないため、諦めるつもりはない。
でも、黙って何かするつもりはないというか、まぁ事後報告にはなるかもしれないが、それで何があったかくらいは二人に言うつもりだ。
「出来ることなら、武尊様には何もしないで欲しいのですが……無理ですよね。澪様も、復讐相手を諦められないでしょうし」
「わしとしてはすぐに見つけろというつもりもないし、もっと気長にやって構わんがな。見つけてもすぐにどうこうする必要もない。きっと、今頃かなり苦しんでいるじゃろうしなぁ……」
「呪詛返しをなされたのでしたね……恐ろしいものです」
「なぁ、呪詛返しってどれくらい怖いんだ?」
龍輝が尋ねてきたので、俺が答える。
「そうだな。たとえば、元の呪いが、ちょっとつねられる位の痛さだったとする」
「おう」
「返されると、腕が落ちる」
「えっ……!? やべぇじゃん!」
「そう、やばいんだよ……だからお前らも呪詛とか使う機会があったら、絶対に返されないようにするか、返されてもどうにか出来るように必ず対策しろ。下手するとたいしたことない呪詛で死ぬ。昔からそういう事故って多いんだよな……」
「……覚えておくぜ」
「私も、肝に銘じておきます」
そして、そのすぐ後に夢野先生がやってきて、俺たちの迎えが来たことを告げたので、そのまま帰宅した。
光枝さんは澪に驚いていたが、大雑把な話をしたら以外にすぐ納得していた。
これは不思議だったが、車に乗っている最中の澪が驚くべき事を口にしたのでその理由を俺も理解した。
「あれは狐じゃろ。なんじゃ、お主の父上も従妖術の使い手か」
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