第67話 禁術
「ところで、龍を襲う気術士ですが、私には少しばかり心当たりがあります」
咲耶がふと口にする。
「えっ、本当か?」
「ええ。もちろん、確証は特にないですが……南雲の一門なら、それくらいのことをやるのではないかと」
「南雲家が? そうなのか……」
言われて、俺は少し意外に思う。
南雲一門。
それは、俺を殺した三人のうちの一人、南雲慎司が頭領を務める四大家の一つ。
結界術を得意とする一門で、この幼稚園に張ってあるような結界は南雲家の手によるものだ。
癪なことに俺の目から見ても良く出来ている結界であるからそれ自体に何か文句はないが
……。
そんな奴らは現在、要人の護衛などで財を成しているらしいと美智から聞いていた。
以前の……俺が生きている頃の南雲家はそんなことはなく、結界術とそれを使った儀式の主催などを生業にしていたのだが、慎司が頭領になって大分変わったようだ。
まぁ、元々得意としている結界術の基本的な機能、何かを護る、ということに特化して多角化したのだと考えると、賢いのかもしれないな。
しかしそんな南雲家が龍を殺しにかかるのは……。
どうなのだろうか。
あまり意味を感じられない気がするが……
俺がそう思ったことを察したのか、咲耶は続けた。
「……南雲家の護衛稼業ですが、表向きには気術士を派遣することによって行っていることはご存じかと思います」
「あぁ、そうらしいな。強力な気術士は、その辺のチンピラじゃまず相手にならない。重火器を使っても、それこそロケットランチャーでも撃ち込まれない限り、守り切れるだろう。それが特に結界術を得意とする南雲家の術士ならばなおさらにな……」
「その通りです。ですが、南雲の気術は守護に特化しているがゆえに、あまり攻撃には向きません。誰かから攻撃を受けても、反撃が難しい……これは南雲家の昔から抱える問題でした」
「そこのところは、他の家の術士と組むことで解決してきたんじゃなかったか?」
「ええ、四大家の他家との強力……これは南雲家にかかわらず、他の家も同様ですね。いずれの家も、得意とする術には何らかの穴がある。それを補い合うための、四大家。ですが、それを南雲家は不満に思っていた」
「……なるほど」
そういう事情も、あるか。
というか、それは他の家も同じなのだろうな。
ただ、表だっては誰も言わない。
他の家の不審を買うからだ。
だが……咲耶が知っていると言うことは、隠し切れてはいないのだろう。
隠す気がないのか、美智辺りが探り当てたことなのかは分からないが。
今度尋ねるか。
「それがゆえに……南雲家は、とある禁術に手を出している疑いがあるのです」
「それは?」
「妖魔の合成術」
「それは……」
「古い時代より、決して行ってはならないと言われる禁断の術です。妖魔を従えること自体は、従妖術等として許されていますが……合成することは……」
これにどう言うべきか迷った。
禁術のことは、普通の気術士は知らないからだ。
しかし、あくまで推測、という感じでギリギリのことを俺は言う。
「おそらくだが、強力で扱いがたい妖魔が何度も生まれたことでもあるからか?」
「ええ。ですが南雲家は……」
「だが、流石にいかに南雲家とは言えそこまでのことは……」
「はっきりと確認できていないのはその通りですが。ですが、この一年で、その兆候のある妖魔が何体か、見つかっています」
「たとえば?」
「鱗のある鬼や、羽の生えた鉄鼠などです」
「なるほど。まぁ突然変異の範疇かも分からんが……」
「そうかもしれません。しかし、何匹も見つかるのは異常です」
「うーん……まぁ、咲耶が言いたいのはそう言った合成用の素材として、澪が目をつけられてるって事か」
「はい」
ここで黙って聞いていた龍輝が、
「……なぁ、合成術って、そんなに問題なのか?」
と尋ねてくる。
龍輝はまだその辺を学んでいないのだろう。
というか、禁術の類は、学ぶことすら通常は認められないからな。
咲耶が知っているのは、北御門の継嗣だから。
俺も同様だ。
ただ、俺が説明するわけにはいかないので、咲耶が言う。
「大問題です。私たち気術士は妖魔を倒す者ですが、そのやり方には今までの積み重ねと経験が大きく作用しています。ですけど、合成術によって生まれた妖魔は……そういった知識が全く使えなくなるおそれがある。いわゆる、初見殺しです」
「そう言われるとなんだかやばそうだな……でも強い妖魔も似たようなもんじゃないか?」
「強力な妖魔はそうそう現れませんし、いきなり増えることもありません。ですが、身も知らぬ力をもった、しかし矮小な妖魔が大量に現れれば……合成術は、そのような事態を生み出す可能性があるのです」
「……分かった。めっちゃ危ないんだな……」
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