第66話 友人たちへの報告

 それからしばらくの間、大人達は色々と相談していた。

 主に、鎌田が事の詳細を日方園長と夢野先生に話し、これからどうすべきか、誰に連絡すべきか、このことについて公表すべきか否かなど、その内容は多岐に渡ったようだ。

 結果として、俺が澪と契約したことについては基本的にこの場にいた者達の間だけの秘密とし、ただ俺が北御門一門の人間であるからそのトップである美智には報告すること、また俺の両親と、関係者になってしまった咲耶と龍輝の両親には伝えると言うことになったようだ。

 ようだ、というのは、俺はその間、二人と話していたので、大人達の話し合いが終わった辺りで聞いたからだ。

 二人は俺の体調や怪我などを心配していたが、いつもの様子だったので安心していた。

 加えて、俺が猫を被ったしゃべり方をし、かつ視線でもって後で話すと伝えていたから、その場では大した内容の会話はしなかった。

 澪も基本的に静かに黙って俺の横に控えていて、咲耶と龍輝は若干怯えていた。

 やはり、気術士として、龍の力というのがこれだけ近くにいれば感じられるのだろう。

 比較的抑えているとは思うのだが……漏れ出してるのかな。

 俺が注いだ力が今までの数倍に達しているという話だったから、まだ扱いかねているのかもしれない

 断気の技術は霊気や妖気でも同様のものがある。

 百年生きた竜がそれを身につけていないはずもなく、やはり慣れの問題なのだと思われた。


「じゃあ三人とも、お迎えを呼んでくるからここで待っていてね」


 夢野先生がそう言って園長と共に教室を出て行く。

 正直、夢野先生には全て話しても構わないのだが、園長には言いにくいので後回しにすることにした。

 三人だけになり、他の大人の気配も感じられなくなったところで、やっと俺は口を開く。


「……さて、どっから話したもんかな」


 すると龍輝が、


「やっぱり、大人達に説明してたことは本当のことじゃないのか?」


 と勘の鋭いことを言う。

 直情的に見えて、実際に行動や正確は素直かつ直情的だが、結構勘が鋭く賢いのが龍輝だ。

 俺の話し方や猫のかぶり方から、察するものがあったのだろう。


「まぁな。というか、俺がたとえ相手が龍だからといって、奴隷みたいな扱いを喜んでされると思うのか?」


「……そう言われると、しねぇだろうなぁ……。というか、むしろ逆の方が納得がいくと言うか……いえ、澪様。すみません……」


 言いながら、当本人の龍がいることをすぐに思いだし、頭を下げた龍輝である。

 けれどそれに澪が、


「いや、気にすることはないぞ。まさしくその通りじゃしな。あの場ではわしの方が主のような振る舞いをしたが……実際にはわしの方が従えられたのじゃ。どちらが奴隷的かと言われると、わしの方じゃよ」


 そう答える。 

 先ほどまでとは全く異なる、穏やかな話しぶりに、龍輝と咲耶が驚く。


「……あの、今のお話は本当なのでしょうか……?」


 咲耶がそう尋ねると、澪は言う。


「お主が武尊の許嫁の咲耶じゃな。うむ、本当じゃよ」


「っ! それをご存じなのですか……いえ、それより、どうして契約を……?」


「それには色々事情があってのう……説明して良いな、武尊よ」


「あぁ。こいつらには基本的に隠し事をするつもりはないからな」


 そして、澪が先ほどの全てを二人に話す。

 すると、二人は納得した表情で、


「なるほど、傷を負っておられたのですね……それを武尊さまが治癒したと。流石は武尊様です……」


「浄化って難しいんじゃないのか? 武尊はマジでなんでも出来るのな……」


「ほぼ力業だから、本当に技術ある人と比べると児戯に等しいとは思ってるけどな」


「確かに乱暴なやり方ではあったのう。それだけに、力で劣る場合には抗いようがないから、武尊向きだとは思うが」


 澪もその辺は感じたらしく、そう言う。

 それから龍輝が、



「しかし、龍を、気術士が……? なんでそんなことすんだよ。うちの親父だって龍は聖なる生き物なんだから敬えって言うぜ。もちろん、邪龍に墜ちたのは別だけど」


 と首を傾げた。

 しかし、これには意外にも咲耶が言う。


「いえ、そう言った気術士もいると、おばあさまから聞いたことがあります。龍の体はその全てが素材になる。それを手に入れるためなら、なんでもするような墜ちた気術士もいると……」


「俺もそういう輩だと思っているよ。澪もな」


「うむ。じゃが残念ながら顔を覚えておらんでのう。探すためには武尊についてるのが良いと思ったのじゃ。ついでに人間の世も見てみたくての」


「そうでしたか……ですが、澪様のご両親などは心配されないのですか? 聞くところによれば、澪様はまだ私たちのような子供だと……」


「咲耶も龍輝も、わしのことは呼び捨てで構わんぞ。わしの両親じゃが、父はおらぬゆえな。わしは母一人から生まれた。その母にしても、基本的なことを教えてくれたあとは放任じゃから問題ない」


「それは寂しくはないのでしょうか……?」


「あぁ、愛されてないとかではないぞ。龍は大体そんなもんじゃ。個体として完成されておるからのう。ただ、会いに行けば親しくしてくれるし、頼み事をすれば大体聞いてくれるからのう。そもそも母上はわしと違って聖泉の主じゃ。そうそうその場所から離れられぬ故、仕方がない」


「そういうものですか……」

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