第63話 契約
「……さて、色々とすっきりしたところで、契約か。いいんだな?」
契約とは、もちろん、龍を俺の式鬼とする契約のことだ。
やり方は龍から聞いたから出来るはずだ。
俺の質問に龍は答える。
「あぁ、構わんとも」
「そうか……ちなみにだが、これって契約した場合、いつまで有効なんだ?」
「どちらかが死ぬまでじゃな」
あっけらかんと答える龍に、俺は少し驚く。
「……それじゃあ、お前、俺が死ぬまでずっと契約に縛り付けられることになるじゃないか。期間とかつけられないのか?」
「無理じゃな。一時的な式鬼化というのもあるらしいが、それこそ術式をわしは知らんし、出来たとしても一日二日で契約は終了してしまうらしい」
「一日二日か……それでも龍に力を貸してもらえるなら十分なような気がするが」
「流石にそれだけではわしに傷を負わせた犯人を探せんじゃろ?」
「確かにそれはそうだろうな……そもそも俺は、そんなに調査出来るわけでもないし。外出もかなり限られているからなぁ……」
「そうなのか?」
「あぁ、これでも普段は普通の幼児をやってるからな。両親は過保護に扱ってくれてるぞ」
「お主が危険な目に遭うことなど、そうそうないと思うが……」
「それを大人に納得させられる年齢ではないんだよ……ま、そんなわけだから気長に待っててくれ。必ず犯人は捕まえるが」
普通ならば証拠隠滅とかの危険を考えると、あまり放置しておけば見つからなくなる可能性も高いだろうが、呪いを返したからな。
あれだけの呪いだ。
よほどしっかり浄化できない限りは、かならず残り香が残る。
俺の場合、大量の真気に飽かせて跡形もなく消滅させられるが、普通の気術士に可能なことではない。
……なんだか、最近力業ばかり覚えてる気がするな。
もっと気術士として、技術を身につけなければ……。
そうでないと、いつか足下をすくわれることもあるだろうしな。
そんなことを考える俺に、龍は言う。
「まぁ、そのうち捕まえられるならそれで構わぬ。契約の期間にしても、お主がどれだけ長生きしようと百年前後じゃろ? 仙人のような不老長寿の術を身につければ話は違うじゃろうが……」
「仙人ね……さすがに知り合いはいないな」
それこそ伝説的な存在だ。
気術士といえど、お目にかかれるものではない。
「ならばよかろ。百年くらい、あっという間に過ぎ去る」
「長生きで羨ましいよ……じゃあ、やるか。まずは陣を構築して、と……」
龍から学んだ術は、立体的な気術陣と、そこに注ぐ真気の量、手順、それに呪文に、相手にかける誓約の言葉だ。
この中で最も重要なのは気術陣で、これがまともに形成できないと術は成立しないらしいが、俺にとってはさほど難しいものではなかった。
龍の周囲を囲むように、立方体の気術陣が完成する。
「……おぉ、流石じゃの。これだけの気術陣を作るのには、相当な真気が必要なはずなのじゃが……」
「有り余ってるからな。まだまだ余裕はある……で、《……天地から生まれし鬼神よ、我が気力を受け入れ、我が身に従いたまえ》」
呪文を唱えていくと、気術陣が光り出す。
ここからは呪文自体よりも、真気の制御が大事になってくるようだ。
暴れるように真気が様々な方向に逃げだそうとするのを、陣へと無理矢理押し込める感覚に近い。
やっぱり力業なんだよな……陣自体を解析して、もう少し合理化すればもっと洗練された術に出来るだろうが。
高度でも昔の術、ということではあるのだろう。
ただし、古く強力な術であることも間違いない。
現代の気術は洗練されてはいるし使い勝手もいいものが多いが、源流にある術よりも規模や威力は落ちていると言われているしな。
これを使ってみて、なるほどと納得できた。
「……よし、これでいいだろう。では……《龍よ、我が名は高森武尊。我の意に従い、我を護り、我と共に死ぬるか。我が自由の代わりに与えるは、我が真気。
これは誓約であるため、別に今の言葉で言っても良いはずだが、龍が教えてくれたそれは少し古くさい言い回しだった。
変えてもいいが、変えて色々崩れるとあれなので、あえて言いにくいところ以外はそのままにして言っている。
これに龍は答える。
「《従う。我が名は澪。気術士、高森武尊よ、我が名と力を受け取り給え》!」
すると、龍……澪から、大量の霊気が吹き出す。
ここからだ……俺はその霊気を受け取り、そしてそれによって澪の霊気の欠けた部分に真気を注いでいく。
真気が入ったら、さらにその真気を澪の体内に溶かし込むように流し込んでいく。
これが、この術が力業であるゆえんだ。
相手の力と俺の力を交換し、体内から相手を支配し、それによって契約となす……。
よくこんな無茶考えたものだな。
だが、これが出来れば理論上はどんな相手であっても逆らえなくなる。
何かあれば体内から攻撃できるからだ。
支配とはそういうことだ。
俺の中にも澪の霊気は入るが、それはあくまで捧げられたもので、澪は操作することは出来ないから、向こうからどうこうすることも出来ない。
ただ、俺が使える力の総量が増えるだけだ……。
そして……。
最後に陣が強く光り輝くと、パンッ、と割れて消えた。
中心には澪が立っていたが、ふっと気を失い倒れそうになる。
俺はそこに走り、澪の体を支えた。
「……すまぬな」
「いや。契約結んだんだし、もう仲間だろ」
「そうじゃな……よろしく頼む、主殿」
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