第61話 伝承

「……何を、って……北御門の者なら知っておるじゃろ? お主らが得意とする気術は式鬼術なんじゃから」


 龍の台詞に、俺は驚く。

 そんな事実は、前世でも聞いた記憶がなかったからだ

 だから俺は言う。


「いや……北御門本家でも、式鬼術なんてものが得意とは聞いたことがない。北御門が得意なのはあくまでも空間系気術だ。《虚空庫》などに代表される……」


「んん~? それはおかしいのう。わしは母上からそうだと聞いたんじゃが。お主らの初代は、式鬼術を使い、多くの妖魔を従えたと。その中にはわしら龍の中でも名の知れた者もおったから間違いないはずなんじゃが……」


「馬鹿な……そもそも、式鬼術とは、あれだろ? それこそ伝説で言う、自分よりも強大な妖魔すらをも従える、式神術の上位互換とされる……」


「おぉ、なんじゃ知っておるではないか。まさにそれじゃ。式神術は使えるじゃろ?」


「まぁ……あれはどの家でも普通に使っているからな。ただ、あれはあくまでも自らの真気を使って、ある種の命令を組み込んだ人形を作るだけのものだ。式鬼術なんてものとは、話が違う……」


「そうか……では、どこかの段階で途切れた技術なのかもしれんのう。お主ら人の命は短い故」


「そういうこともありうるか……しかし、だとしたら勿体ないな。使えたら、あんたが俺の……なんだ、式鬼になってくれてたんだろう?」


 龍をそんなものに出来るなんて、近年の気術士界隈では聞いたことがない。

 妖魔を従える、という方法を限定的に可能にしている気術士は確かにいなくはない。

 しかしそれは、自分よりも弱いもの、低級の妖魔をそうできるというだけだ。

 龍のような存在そのものが人よりも格上のものを、そんな風に出来ることはまずない。

 だから非常に勿体ない技術が失伝してしまったものだな、と思ったのだが……。


「まぁ、そうじゃが、別にお主が復活させればいいのではないか? 最低限のやり方はわしも聞いておるから、それを教えることは出来るぞ」


「なんだと……!?」


「母上から聞いたと言ったじゃろ。まぁ、わしが他の妖魔にそれを使えるというわけではないが……そもそも気術士の技法ゆえな。わしらには使えぬ。じゃが、お主なら……」


「うーん、それは魅力的な提案だが……とりあえず、教えてみてくれるか?」


「うむ……」


 そして、龍が式鬼術の基本を口伝にて、教えてくれた。

 確かに、これだけ聞けばやり方は理解できた。

 使うこともおそらく出来る。

 出来るが……。


「ほとんど力業だろこれ……。成功するのか? 龍相手に……」


「そうなのか?」


「大量の真気を使って無理矢理契約を結ぶ、みたいな構成になってるんだよ。相手の意志とかまるで関係ない……これ使って多くの妖魔を従えてたとか、初代の力はどうなってんだ……?」


 ……いや、考えてみれば、初代は俺と同じように地脈と繋がっていたのだったか。

 だとすれば、ほとんど無尽蔵の真気を扱えたわけで、こんな無茶な構成でも使うことは出来たのかもしれない。

 しかし他の人間にはまず無理な奴だ……多分、俺を除いては。

 だからこそ失伝したのだろう、ということが今は分かる。

 俺が、俺だけが、この技術を継承できる……それは何か、心が熱くなるものがあった。

 俺が初代の技法を……。

 

「まぁ失敗したら失敗したでいいじゃろ。何かデメリットがなければ」


 龍があっけらかんとした口調でそう言う。


「……あんたに大量の真気を流し込むって話なんだが、随分と脳天気じゃないか」


「わしは龍じゃ。そう簡単には死なぬさ。それに、その前に《呪い疵》を治してくれるんじゃろ? 完全な体であれば……大体のことは耐えられる」


 適当に言っているようで、龍としてもそれなりに覚悟が決まっているようだった。

 そこまで言うのなら、仕方がない。

 そもそも、この提案自体が非常にありがたい話だしな。

 そう思った俺は言う。


「分かったよ……やろう。あんたが俺の式鬼になれば、あんたに《呪い疵》を負わせた気術士を探すのにも役に立つだろうしな。顔くらいは見たのか?」


「いや、それがあまり……」


「……じゃあ真気は?」


「それは近くで見れば分かるかもしれん」


「そういう意味でも、あんたを俺の近くに置くことは必要か……。よし、じゃあ早速やるか。まずは疵を治すから、背中を向けてくれ」


「うむ」

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