第59話 理由
急に口調も雰囲気も変わってしまった小龍に、俺は面食らう。
しかも、言っていることが何か俺の存在の本質を突いているようで、困惑した。
とりあえず、探るか……。
「一体どういうことですか? 僕と同じって……」
『どういうもこういうも……あー、霊声も疲れるのう。ちょいと待て』
そう言って、ぼわん、と辺りに煙が立ちこめ、そして気づけばそこには小さな影が存在していた。
「はぁ、すっきりした。やっぱりこっちの方が楽じゃのう」
普通に人間の声が聞こえる。
しかも、その見た目は……。
「……え、さっきの、小龍さま……なんですか?」
俺は首を傾げて尋ねた。
それもそのはず、そこにいるのは龍などではなく、明らかに人間の幼女にしか見えないのだから。
ただし、幼女とは言っても、今の俺よりは年齢が上だな。
六、七歳、といったところか。
身につけているものは、分かりやすい巫女服で、白い上衣に赤い袴を履いている。
足下は草履か。
髪型は……朱色の紐で一部括られた長髪で、かわいらしい印象がある。
どう見ても、人間だ。
俺の質問にその幼女は答える。
「そうじゃぞ。お主も気術士なのじゃ。高位の妖魔が人化することがあることくらい知っておろう。それじゃよ」
「人化ですか……」
まぁ、知らないわけもない。
俺を転生させてくれたあの鬼も、人化していてあの見た目だったのだろうから。
低級の鬼などにはまず出来ない人化だが、この幼女が言うとおり、高位の妖魔は人化出来る。
そうする理由は様々で、人と会話するためとか、大きすぎると不便だからとか、人に交じって生活するため、なんていう理由まで色々だ。
この幼女は……自分で言ってたとおり、さっきまでの体で俺と話すのが手間だと言うところだろうか。
「ふむ、知らんのか? それだけ巨大かつよく練られた真気を持っておるのじゃ。相当強力な気術士じゃと思ったんじゃが……。わしでも勝てんな、主には」
この台詞で、こいつがさっき俺に、自分と同じ、と言った意味の大まかなところが理解できた。
つまりは、本来の自分を隠している、くらいの大雑把な意味だったのだろう。
まさか転生した事実そのものを分かられたということもあるまいとは思っていたが、こうして確認出来て安心する。
とはいえ、まぁ……。
俺の持つ力を正確に理解しているというのなら、変に遠慮する必要もないか?
猫を被って疲れるのは俺もまさに同じなんだよな……。
「いや、人化くらいは知っている。だが、なぜ今の今までそれをせずにいたのかが分からなくてな……」
試しにため口で行ってみると、幼女は特に不満そうな気配もなく
「おっ、それがお主の地か? なるほど、先ほどまでより似合うておる」
「悪いな、普通の子供のふりは疲れるんだ。分かられてるなら、これで勘弁して欲しい」
「いや、全く構わんとも。人の口調など、さして気にならん。そもそもお主のような強力な存在に遣われてもな」
「そうか……流石に龍ほどではないように思うが」
「わしはまだ龍としては幼い故……まだ百年も生きておらぬ」
「百年……」
それを幼いと言って良いのかどうかは人間からすると微妙な話だ。
あの鬼だってそうだったが、妖魔の時間感覚には時としてついていけないことがある。
「まぁ、年齢のことは良かろう」
「……そうだな。それより、どうして俺を呼んだ? 確かにここの浄化をしたのは俺だが、それだけだぞ?」
「あぁ、それなのじゃが……これを見てくれんか」
そう言って、幼女が上衣をはだけ、俺にその背中を見せてきた。
「ん……? これは。酷いな」
近づいて見てみると、そこには傷があった。
普通の傷ではない。
いわゆる《
気術妖術霊術などによって、体の表面だけでなく、その魂にまで食い込む深い傷のこと。
幼女の背中は切り傷のようになっていて、かつかなり黒ずんでいる。
龍は高位の存在なので、多少の傷くらいであればすぐに治癒してしまう。
そもそも傷などつかない、ということが大半ではあるが、傷ついたとしてもそうなのだから生物としての存在の格が違うなと思わざるを得ない。
それなのに、そんな彼女にこの傷である。
「何があった? 普通の攻撃ではこんなことにはならないだろう」
「それなんじゃがなぁ、お主、霊獣を狙う気術士に知り合いはおらんか?」
「何? つまりそれは気術士につけられた傷なのか」
「恥ずかしながらな。じゃから、ここにおった気術士たちとは会話出来なんだ。危険じゃからな……」
「なるほど……でも俺は良いのか」
「お主はこれほどまでの聖域を作り出せる浄化士じゃ。それに実際こうして目の前にしてみれば、わしより強いゆえな。その気になればすぐにやれるのに、何もせんのだから、信用できる」
「……結構、博打みたいな見分け方するんだな……」
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