第53話 零児の決意 2

「……なぁ、あれって何なんだ? なんでぬいぐるみがあんな高速で動く?」


 俺が横に立ってその戦いを俺と同じように見物している咲耶に尋ねると、彼女は言う。


「あれは人形術ですよ。詳しいことは師から口止めされているためにご説明出来ませんが……最低限のことでしたらお話し出来ます。何が気になられますか?」


 その口調に、お前本当に三歳か?

 十三歳でも疑いたくなるぞ、と言いかけたが、そこを突っ込んでいると話が続かないからやめる。

 そもそも、龍輝にしても三歳とは思えないくらいに利発だ。

 とはいえあいつは天才だからこんなものだろうとも思っていたが、似たような存在がここにもいる。

 咲耶と……それに、十中八九あいつもそうだろうな、高森家の、武尊。

 あの猫の被り方は、俺が婆娑羅の十席の前での振る舞いに近いから分かる。

 相手に何も情報をとられまいと意識的にしている振る舞いだ。

 あの年齢でなんでそんなことをしなければならないのかはよく分からないが……まぁ、この人形術?を見ればそれも理解できなくもなかった。

 この技術一つでも、気術士たちは目の色を変えて欲しがるだろう技術だからな。

 式神術のようで、それとは異なる技術だ、これは。

 俺には分かる……。


 そんなことを考えながら、俺は咲耶に質問する。


「……まず、そもそもだ。さっきまで龍輝の人形、もっと小さくなかったか?」


 そうだ、そこからしておかしい。

 先ほどまで、龍輝の人形のサイズは、せいぜいあの小さな龍輝が抱えられる程度の虎でしかなかった。

 概ね、小さめの猫くらいか。

 それなのに、今のあの人形は……龍輝と同じくらいの大きさになっている。

 相対している武尊の藁人形の方は小さいままだが……。


「……あぁ、あれは《巨獣化》ですね。龍輝の人形に特有のギミックで、あれは私の人形にはありません。まだ作り方は教えてもらっていないのでいずれ学んで組み込みたいですが……」


「ギミック……?」


「ええ。人形術の優れているところは、自分ではない人形に戦わせることが出来るところも勿論ですが、色々なギミックを組み込めるところにあります。基本的なものは、武器を仕込む、自爆機能などですが……その他も好みによって色々と。術具さえ用意できればですが……」


 それを聞いて、こいつはとんでもないことを簡単に言っているな、と心底思った。

 確かに通常の気術の中にある、式神術でも、似たような事はできるだろう。

 ただ、式神は使い手の力にかなり依存する。

 弱い気術士が使っても大した機能は組み込めないし、その場合はせいぜい連絡用に飛ばすくらいだ。

 しかし、この人形術は……本人の力量を超えたギミックすら仕込めそうではないか?

 術具を組み込めるというのはそういうことだ。


「限界はないのか?」


「ありますとも。作り手の技術を超えたものは当然作れません。ですので、私たちにはまだ、人形は作れませんよ。武尊様はもしかしたら作れるかもしれませんが……。本当に困ったものです。武尊様は私を置いてどこまでも先に進まれてしまう。私や龍輝二人がかりでも、武尊様にはまだ、敵いません」


「えっ……」


 咲耶がそう言ったところで、


「くそっ! おい咲耶! 二人でやるぞ!」


 龍輝がそう叫ぶ。

 北御門家のご令嬢にその口の聞き方は大丈夫なのか?

 と子供でも思うが、咲耶は特に不満そうでもなく、


「承知しましたわ! 今日こそは勝ちましょう!」


 そう言って人形を手に持ち、向かっていく。

 俺はそれから、武尊対龍輝・咲耶連合の戦いをしばらく観察することになった。

 一緒に遊ぼうぜ、とか言ったのは俺なのに完全に置いてけぼりで少し寂しい気もしないでもなかったが、それ以上に俺はすごいものを見つけてしまったなという気持ちが強かった。

 加えて、ここに他の誰もいなかったことを感謝した。

 誰かがこれを見れば、やばい。

 何がなんでも、こいつらを攫おうとするだろう。

 それだけの才能、技術、能力をすでに持っている。

 このことを、こいつらの家族は知ってるのか?

 とりあえず、ババア……北御門美智にだけは、まず報告しなければと思った。

 そしてそれに加えて、少し許可を求めたいとも。

 こいつらの才能を腐らせるのは勿体無いのではと思ったのだ。

 これだけの力を持っているというのなら……早いうちに、実戦を経験させてもいいのでは?

 と。

 いや、実戦は危険にしても、それに近い環境を与えた方が、自らの身を守るのにもいいだろう。

 そしてそのためには、婆娑羅会で昨今立ち上がってるとあるプロジェクトが使えそうではないかとも。


 まぁ、全てはババアの許可ありきの話で、それに加えて各家族との相談も必要だろう。

 それにすぐではない。

 せめて小学生になってから考えるべきだろうが……。


「……なんだ、急に面白くなってきちまったな」


 一人、そう呟きたくなるくらいには、俺はワクワクしていた。


─────────


後書きです。


皆さんのお陰でカクヨムコン、現状も本作が2位に入ってました!

ありがとうございます!

ただ1位は遠く、総合ランキングの方を見てみたら本作は24位で、10位以上離れてたので無理そうかと思いました。

でも諦めずに頑張っていきたいと思いますので、もし評価まだしてないな〜という方がおりましたら、


⭐︎⭐︎⭐︎→★★★


にしていただけると大変ありがたいです。

どうぞ宜しくお願いします。

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