第54話 龍輝の評価
……どうやら、問題なさそうだな、と零児の反応を見て俺は思う。
というのは、龍輝について気になっていることがあったからだ。
彼の才能は、咲耶ほどでないにしろ、かなり飛び抜けているのは分かっていた。
それは、前世で言うところの四大家の、俺以外の三人に匹敵する程度には。
いや、龍輝の方がおそらく上だろう。
あいつらは、ガキの頃は正直大したこともなく、頭もそれほどよくはなかった記憶がある。
南雲慎司だけは得体の知れないところがあったが……それも、あの最後の瞬間に見せた激情というか、悪趣味な部分をひた隠しにしていたのだと考えると納得がいく。
ま、あいつらのことはいいだろう。
それより今は龍輝についてだ。
龍輝の才能について、どれくらいのことを時雨家の人々が理解しているのか、それが気になっていたのだ。
もちろん、北御門一門最上位の家の一つ、時雨家の継嗣であり、それなりに評価されているだろうということは疑っていなかったが、最近の龍輝は俺や咲耶につられて実力の上昇が著しい。
幼稚園入学当初とは何段も異なる実力を手に入れていて、正直今なら普通に気術士として働いても低級の妖魔くらいなら難なく屠るだろうというところにまで至っている。
言うまでもなく異常だが、頼もしいことには間違いない。
けれど、龍輝には色々と人には言うな、と俺が口止めしてしまっているところもあって、家族にその実力が正確に伝わっていないのではないか、と思っていた。
俺が言うな、と釘を刺してるのは俺自体のおかしさとか、夢野先生が教えてくれた、夢野家に伝承されている奥義くらいで、その他については別に自由に使い、かつ言って構わないと思っているのだが、龍輝は雑そうな性格をしていながら、そういうところかなり真面目だ。
俺たち三人でいるときに身につけた技術や知識は、基本内緒だ、と思ってる節がある。
まぁそれでも子供だから、それくらいの考えで隠しておいてくれた方が情報が漏れなくていいとも思っていたが、ここまで育ってしまうとな。
むしろ隠している方が危ないかもしれない。
強い気術士というのは妖魔から恐れられるが、それが子供となれば捕食対象として付け狙われることもあるからだ。
まぁ、時雨家はそれも分かっているだろうし、十分な警護もしているだろうが、やはりある程度、龍輝の実力は分かっておいた方がいいと俺は思い始めていた。
そのため、今の龍輝がどれほどの力を持っているか、それを分かりやすく伝えられる場面を俺は求めていた。
今回、龍輝と咲耶がうちに来てくれたのはそういう意味でも都合が良かった。
本当なら、遊ぼうと言ったところで、人形術を使ってということにはならないのだが、俺は今日は周りに気術士しかいないし、幼稚園と違うからいいだろうと言って、人形術遊びの方をすることにした。
幼稚園だと、ただの人形遊び……に見せかけた、術具の構造分析とか、外側から見ても普通にしている子供にしか見えないように工夫したものに終始しているが、今日はそういう遠慮をやめていいと。
二人の喜びようはもの凄く、調子に乗って本気で人形術を使っている。
夢野先生が俺たちに与えてくれた人形は、今はそれぞれ専用に調整されたものになっていて、組み込まれたギミックもそれぞれ異なる。
一年の間に、それぞれの好みや適性、希望を勘案しながら作ってくれたのだ。
日本気術と西洋魔術をふんだんに使用した俺たちの人形は、正直、今の俺には正確な構造すら分からないほどに高度な品だ。
そんなものを作れるような有能な気術士がどうして幼稚園で先生などしてるのかは未だに謎だが、まぁ、色々あるのだろうとは思う。
ちょろちょろ幼稚園の敷地外に出て、幼稚園に近づく妖魔を倒しているのも察知しているし、そのために重要な人材なのかもな。
ともあれ、そんな夢野先生の作った人形で、龍輝と咲耶は俺に挑みかかる。
最初は龍輝だけだったのだが、一人では俺に勝てないと思ったようで、零児の横に立っていた咲耶を呼びつけ、二人がかりで俺に挑んできていた。
……まぁ、二人とも、確かに強い。
人形の速度たるや、それこそ通常の人間の目には容易に視認できないほどであるし、攻撃自体も地面を抉るほどに強力だ。
けれども、やはりまだ三歳の子供。
俺からしてみれば、単純な攻撃が多く、いなし、避けることに困ることはない。
そもそも、俺の人形はそれに特化している関係もあって、楽なのだ。
結界術と暗示に特化して作られた人形で、ある意味でかなりいやらしい搦め手ばかり得意とする人形である。
動きの様々なところに幻惑や暗示を組み込み、微妙に狙いを外させて、力点を操って、相手の攻撃を簡単にいなせるようにする。
そんなことを行っているのだ。
三歳のガキ相手にやることではもちろんないが、こういうことは妖魔も平気でやってくるので、早めになれた方がいい。
実際、俺のやり方に二人は徐々に適応していっているし、教育方法として間違ってはいないだろう。
あの封印された空間の中で、鬼神が俺と模擬戦をしているときも、同じようなやり方をしていたしな。
これを続ければ、確実に二人の実力アップに繋がるはずだ……。
そして、そんな俺たちの遊びならぬ訓練を見ている零児の顔を見ると、彼が何を考えているのか、大まかなところは分かる。
彼は、今日の今日まで、龍輝の正確な実力を知らなかったこと。
そして、それを今日知ってもなお、龍輝を利用しようとか、そういう悪意がないことだ。
これを確認できただけでも、十分な収穫だな、と俺は思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます