第51話 本来の目的

「……婆娑羅ばさら会って、暴走族みたいなもの?」


 俺が子供ぶって直球でそんなことを尋ねてみると、零児は笑った。


「はっはっは! お前、おもしれぇこと言うな! ……でも、あながち間違いとも言えねぇか? 若い気術士の跳ねっ返りが集まってるからなぁ……」


「じゃあ、ちゃんとした気術士の家とは仲が悪い?」


「……いや。そうとも言えねぇ。というか、立ち上げ当初はそうだったらしいがな。今は割と連携してるよ。だから、ババアにも話が出来る」


 零児がそう言って美智に視線を向けると、彼女もまた頷いて言って。


「零児ちゃんの言うことは正しいわ。まぁ、本当に昔……三十年くらい前かしら。その頃はバチバチにやり合ってた時期もあったんだけどね。今じゃ、その頃の子達がそれなりの年齢になって、まともな組織になったから。組織に属する人間の属性はさほど変わってはいないのだけど」


「そうなんだ……」


 俺が頷いていると、


「いいなぁ。俺も婆娑羅会入りたかったのに」


 龍輝がぼそり、とそんなことを言った。

 どうやら彼はその組織のことを知っているらしい。

 気になって俺は尋ねる。


「どうして? 龍輝は時雨家を継げば良いんじゃないの?」


「だって楽しそうだろ! それにかっこいいし、零児兄ちゃんも入ってるし……十席にもなれるかもしれないし!」


 龍輝がそんなことを言う。


「十席?」

 

 これには零児が、


「あー、それは婆娑羅会の幹部衆のことだな。第一席から、第十席までいて……婆娑羅会最強の術士十人が選ばれる。腕っ節がものを言うから、強くないと話になんないんだが……」


 と言い、龍輝が、


「でも零児兄ちゃんもうすぐなれるって……」


 と尋ねる。

 すると零児は困った顔で、


「……まぁ、確かに言ったが、ほら、それは勢いというか……。今は雌伏の時でな。力をつけて、確実に奪い取れる確信が出来たら、そのときに、な? 俺は慎重派なんだ……」


 と言うと、龍輝は、


「そうなんだ!」


 と納得していた。

 

「……婆娑羅会の十席に入るためには、前任者を倒す必要があるそうです。ですから、十席に入りたいのであればそれなりの実力が必要だと」


 俺の耳元で、咲耶が知っている情報を補足してくれる。


「……もし前任者が病死したらどうするんだ?」


「その場合は候補者達で戦って決めるらしいですね。ただ、滅多にないことでしょうから」


「まぁ、そりゃそうか」


 気術士の寿命は長い。

 それに死期がくれば自ら悟るもの。

 そうなると死ぬ前に戦って、みたいなことになるだろう。

 それを考えると中々起こりえる事態とは思えないな。

 しかし本当に腕っ節勝負の集団なのだな。

 これは気術士にあっては中々珍しい。

 気術士は、その技術の継承の関係もあって、家というものが非常に重視されるからだ。

 実力以外の部分も重視され、ただ強ければそれでいい、とは言い切れない。

 もちろん、妖魔との戦いでは強さのみが正義なのだが、かといって強いが家門の技術を継承出来ないでは問題だからな。

 婆娑羅会というのはそういうミスマッチ的な部分についてもフォローする価値ある団体なのかもしれなかった。

 

「……まぁ、うちの組織のことはいいだろ。それより、鬼のことだ」


「そうね……ただそっちについても、さっき言ったとおり大した情報はないから。それに、今日はそんな話をしに来たんじゃなくて、子供達を退屈させないように交流をってことだったでしょう。難しい話はこの辺でよしておきましょう」


 美智がそう言った。

 確かにそう言われればそうだな。

 でも今の話を、俺は言わずもがな、咲耶や龍輝もそこそこ楽しんでいたので続けても良いのだが……いや、楽しみすぎて、変に首突っ込みそうだから今はやめておいた方がいいのかもな。

 美智もその辺を考えたのかもしれない。

 

「まぁ、確かにそうか。じゃ、こっからは子供と大人で別れるとするか。おい、お前ら。遊ぶぞ!」


 零児がそう言って立ち上がる。

 誰に話しかけたかと言えば、俺たち子供三人にだろう。

 ただ、


「おぉ!」


 と乗っかったのは、龍輝一人で、俺と咲耶は乗り遅れる。

 俺は少なくとも頭は大人なので、一瞬まごついたのだ。

 そして咲耶は、冷めているというわけではなく、こういうノリをそもそも知らないのだろう。

 家では、北御門家の継嗣として大切に扱われ、雑な感じで接せられることがないだろうからな……。

 しかし、一応遅れて立ち上がり、


「あ、あの……」


 などと言ってる。


「おう、遊ぼうぜ。あ、そういやお前ら三人とも人形持ってるな? それで遊ぶか?」


 零児がそう言った。

 咲耶のくまさんのみならず、俺はわら人形のぬいぐるみ、龍輝は虎型のぬいぐるみを持っている。

 もちろん、夢野先生作だ。

 確かに、元々これで遊ぶつもりだったから、それでいいか。

 そう思って、俺が代表して言う。


「じゃあ、人形使って庭で遊びたい!」


 すると零児は頷いて、


「よっしゃ、庭に行くぞ! 俺に続け!」


 そう言って歩き出した。

 ……なんだか思ったより子供の扱いに慣れているな。

 龍輝とよく遊んでいると言うことか。

 妙に感心した俺だった。


─────────


後書きです。


皆さんのお陰でさっきカクヨムコンのランキングを見たら、本作が二位に入ってました!

ありがとうございます!

もしかして一位一瞬でもとれないか……?とか期待をちょっとだけ持っておりまして、

もしよろしければ、まだ評価してないなぁという方がおられましたら、


⭐︎⭐︎⭐︎→★★★


にしていただけると大変ありがたいです。

どうぞ宜しくお願いします。

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