第34話 入園式
壇上でおっさんが延々と幼稚園の来歴について話している。
今日は、俺が入る気術総合学院幼稚舎……表向きの名前は《竜生幼稚園》の入学式だ。
俺の横には父上と母上が座っていて、スーツ姿の二人を見るとただの若い夫婦にしか見えない。
会場にいる他の面々も同様で、両親と子供の組み合わせばかりだ。
たまに祖父や祖母もいるようだが……。
まぁ幼稚園なのだから、当然か。
ちなみに、壇上で話しているおっさん、あれは気術士だな。
真気の流れを見る限り、明らかだ。
園長であるという紹介があったが、やはり気術総合学院には気術士の先生なりなんなりがいるようだ。
ただし、全員がそうである、というわけではなさそうだった。
会場の横に控えている先生方が何人も並んでいるが、その中に気術士は二人しかいない。
他は全員一般人で、気術なんてものには縁がなさそうだった。
気術士は、本来非常に貴重な存在であり、どこにでもいるようなものではない。
自然状態であれば滅多に生まれないものを、無理矢理、儀式によって覚醒させたりしながらある程度の数を確保しているのだから、当然のことだ。
そしてそれだけやってもなお、数は多くない。
だから気術士の大半は、激務だ。
腕が良ければ各地に出張などと言うことも多い。
そのため、幼稚園の先生に据える、ということは普通は中々難しいはずだ。
それでも、気術士のための学院を作るのだ、と頑張った人たちの努力が分かろうというものだな。
美智も協力したのだろうが……その辺の細かい話は聞いていないが、かなり詳しい様子だったし、きっとかなり尽力したはずだ。
ただ、そんな学院の幼稚舎であろうと、こういう責任者のスピーチというのは退屈なものなのは共通なようだった。
語っている内容からして、幼稚園の来歴とか言いながら、大事な部分を隠している表向きのカバーストーリーっぽい話だな、と分かってしまう俺みたいなのにとっては特に。
なにせ、気術士の気の字も出てこないからな。
「……武尊、終わるみたいよ」
母のひそひそ声に俺はハッとする。
どうやらぼーっとしていると思われたらしい。
まぁ、他の子供の様子を見てみると、みんな退屈そうにして色々動いてたりして、じっとスピーチを聞き続けている子供は少数派な用だし、仕方がないか。
そしてその少数の大半はまぶたが重そうだ。
ただ、母上の言うとおり、園長のスピーチは佳境に入っている。
彼は最後に、
「……では、最後になりますが、竜生幼稚園に入園された皆様のご多幸を願って、ご挨拶とさせていただきます」
そう言ってマイクを置いた。
そこから後は、どうも、親と子供は別々になるらしい。
その旨の説明が、マイクから流れてくる。
マイクを握っているのは、事務員らしき人だな。
「……園児はこれから顔合わせだってよ、武尊。私たちは色々と手続きとか連絡事項とかあるみたいだから……一人でも大丈夫? お友達たくさん作れる?」
母がそんなことを言う。
一人と言うが、ちゃんと園児を担当する先生が振り分けられて、園児達の名前を呼んでいるからあれについていけばいいだけだろう。
流石に今のご時世、子供を一人にすることなんて中々ない。
俺は別にそうなっても問題ないが……他の普通の子供はな。
むしろ俺にとって問題なのは後者の方、お友達を作れるかどうかだ。
式神だったらいくらでも作れるのだが……。
ともあれ、母上を心配させたくないので俺は言った。
「うん、大丈夫。また後でね」
そう言って、呼ばれた方へと向かって進んだ俺だった。
*****
「じゃあ、みんなこっちにね~!」
若い女性が、十五人ほどの園児に向かってそう言った。
俺たちの先生になる人なのだろう。
ただ、先生は一人ではなく、二人のようだ。
まぁ、流石に十五人の子供を一人で見るのは厳しいだろうし、効率を考えると二人が良いだろう。
他の幼稚園だともっと一人の教諭辺りの担当人数は多いようだが、気術士の子供がいる幼稚園でそれをやると問題が起こりそうだしな。
そもそも、一人で十人以上見るのって普通の子供でも、いや、子供だからこそ難しそうだが、いいのだろうかと思わないでもないが。
国はもう少し、幼稚園とかの先生のことを考えて制度設計すべきではないか、などと思いをはせたところで、俺たちは辿り着く。
どこにか、というと幼稚園の教室だな。
机と椅子が設置してあり、先生が、
「じゃあ皆、席に座ってくれるかな?」」
と言うと、みんな聞き分けよく思い思いの席へと腰掛けていく。
素直というか、単純に疲れているだけかな。
思いのほか、入学式が過酷だったというか、とにかく長かったからぐったりした様子の子供が何人かいる。
健康に問題ありそう、という感じではなく、ただ疲れただけのようだが。
「さて、今日ここに来た皆さんは、この幼稚園の《星組》の生徒になります! 私は星組の先生になる、
そう言うと、子供達は一斉に、よろしくお願いします!と言った。
……随分と息が合ってるというか、聞き分け良いな?
このときの俺は、そう思ったのだった。
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