第32話 今後の予定

「そうそう、お兄様」


 美智がふと、思い出したように言う。


「なんだ?」


 俺が尋ねると、美智は続けた。


「お兄様も三歳になり、《気置きの儀式》を終えられました。したがって、そろそろ幼稚園に通うことになりますが、準備はすでに終えられているのですか?」


「あぁ……」


 言われて、そうだったなと思い出す。

 現代の気術士の家は、俺の時代とは違って学校に普通に通う。

 昔は、まぁ通わないと言うことはなかったが、気術士としての修行の方が優先で、ほとんど学校などには通えないということも普通だった。

 しかし今は違うのだと以前、美智に聞いた。

 たしか……。


「……気術総合学術院、だったか? そこに通うんだよな」


 幼稚園から高校までの卒業資格が得られる、一貫した学校だという話だった。

 これに美智は頷き、補足する。


「ええ、そうです。ただし、表向きには普通の学校です。なので、一般人も普通に通っていますので、そこは注意してください」


「え?」


 てっきり、気術士たちだけが通っている学校なのだと思っていたが、そうではないようだ。

「お兄様の時代もそうだったと思いますが、基本的に我々、気術士の存在というのは表の世界からは隠されていますからね。まぁ、もちろん、表の権力者や、我々に近い職業の人間というのは我々のことを正しく認識していますが、大抵の人間は怪しげな霊能力者程度としか思っておりません」


「そこは変わらないのか……」

 

 ただ、これは大体分かっていたことだ。

 美智に渡されたスマホを見るに、俺たち気術士たちに関する情報などはまず、調べることが出来なかったからだ。

 一応、それらしい情報もたまに見ることはあるのだが、どう見ても迷信か何かだと考えて書いている、みたいなものが大半だった。

 中には本当にあったことだな、と分かるものもあったが、それこそ一般人が見てもそれとは分からないだろう。

 妖魔というのは、通常、姿を見せない。

 見せたとしても、一般人には分からない。

 そんな存在だ。

 彼らは暗闇の中にあり、そこから人間を狙っている。

 それを退治するのが俺たちの仕事で、だからこそ余計な恐怖を与えないように表舞台にはあまり出て行かない。

 

「あまり大っぴらにすると行動しにくいところがありますからね。ただし、霊能力者の実在というのは表の世界でも認識されつつあります。昔でしたら、それこそ本当に眉唾物だとしか思われてなかったですけど」


 霊能力者というのは、天然に存在する気術士だな。

 俺たちは長い年月によって錬磨された気術を技術として扱うが、霊能力者というのはそういった技法を知らず、しかし真気を認識し扱うことが生まれつき可能だったり、後天的に目覚めたりした天然の能力者だ。

 通常の気術士たちのように、体系立てられた技術を知らないが故に、妖魔と正面切って戦えるほどの力を持たないことが多いが、その反面、体系を知らないが故に気術士たちですら使えないような特殊な能力を持っている場合もある。

 たとえば、予知能力やサイコメトリーなんかが分かりやすいところだ。

 似たような技法は俺たち気術士たちにもあるが、俺たちがやるのと、彼らがやるそれは根本的にやり方が異なる。

 そのため、結果にもかなり差が出ることがあって、むしろ霊能力者達の方が優れていることもある。

 だから、昔からそのような存在を見つけた場合、それとなく接触してこちら側に引き入れたりすることも行われてきた。

 そんな彼らの存在が、表の世界にも浸透しているのか……。

 

「それって大丈夫なのか? 妙な目で見られたり、迫害されたりなどは……」


「昔はそんなこともありましたね」


 美智が遠い目で語るのは、それこそ俺の時代には、そういう存在がどこかに監禁されて使われていたり、実験体のように扱われていた、なんて事件が多かった。

 そういうところから彼らを救い出すのも、俺たちの仕事だった。

 間違いなく霊能力者というのは有用な存在で、そのことには昔から多くの人間が気づいていたからな。

 そしてだからこそ、眉唾物、みたいな扱いをして、この世にはいない非科学的な存在委としてきた。

 その方が権力者達などにとっては都合が良かったからだ。

 俺たち気術士の敵は、必ずしも妖魔だけではないということである。

 美智は続ける。


「ですけど、今はそんなことは滅多にありません。ゼロと言えないのは悲しい話ですが……」


「隠れてやられたら、どうにもならないからな。しかし、だったらどんな扱いなんだ? 霊能力者達は」


「よくテレビとかに出演していますよ。そこで予知などしたりしていますね。他には、警察などに協力者として雇われていることも少なくありません。まぁ、昔と同様に私たちの組織に所属していることも多いですが、その場合はあまり表には出ないようになりますね」


「テレビか……客寄せパンダみたいに扱われてるだけじゃないのか?」


「そのような側面もあるでしょうけれど、かなり収入はいいみたいですからね。本人が望んでやっている限りは不幸せということもないでしょう」


「そういうものか……」


「そういうものです。そうそう、学校に行くにあたって、もし霊能力者の類を見つけたら、ご連絡ください。こちらで接触します。お兄様がスカウトしてきても構いませんが」


「あぁ、それは今もやってるんだな」


「ええ。彼らの真気は極めて微弱です。よほど近づかないと気術士でも関知できませんので……」


「能力を自然に使っているときにしか真気が見えないとかよくあったな。今も当然同じか……」


「特に十代までの子供にはその傾向がありますからね……そうそう、それで幼稚園のことですが」


「あぁ」


 美智の話は続く。

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