第31話 謎の品々

「一体何が入っているのですか……?」


 美智がそう尋ねてきたので、俺は答える。


「うーん、武器が多いかな? 刀とか槍とか……あぁ、なんか鎧があるぞ。昔の甲冑みたいなのもある。他にも色々あるけど……なんか古いのが多い気がするな……?」


 年代的に、近年のものとは思えないものばかりだ。

 《虚空庫》の術は、中に何が入っているのか直感的に分かるが、それはあくまでも形状とか質感とかそういうものに過ぎない。

 その物自体の使い道とか来歴とか年代とかが情報として分かるわけではないのだ。

 あくまでも、形状や質感から、自分で推測するしかない。

 ただ、そんな大雑把な感覚からしても、明らかにそれらの品は、古いものだった。


「どうしてそんなに古いものが……? 何か、取り出してみていただけますか?」


「あぁ、そうだな。美智に見て貰った方が良いか。ええと……これとか分かりやすいか? まぁ普通に刀……っぽいが、纏ってる真気がやばいな……」


 俺が取り出したのは、いわゆる大太刀だった。

 一メートル半ばほどの長さで、しかもかなり重い。

 普通なら三歳児が持てたものではないが、身体強化を駆使してなんとか持っている。

 ただ、妙に手に吸い付くようというか、使いにくそうな感じはしないのが不思議だ。

 纏っている真気は、美智がくれた短刀すらも超えており、術具としてもおよそ人間が作ったものとは思えない。

 間違いなく、宝物と呼ばれるだろう品だが……正体が分からない。

 けれど美智はそれを見ると目を見開いた。


「そ、それは……」


「お、何か知ってるのか?


「……はい。しかしどうしてそれがお兄様の《虚空庫》に……? 確か、遙か昔に失われたと聞きましたが……」


「そうなのか? それでこの刀は……」


「《鬼神切きじんぎりと呼ばれる名刀です。かつて、今の気術士の祖達が作り出したと言われる、鬼切の武具の中でも最高峰と言われる、それこそ伝説の品。初代様がお持ちになり、そして鬼神と戦ったときに使ったと……あっ」


「どうした?」


「いえ、ほら、お兄様が封印の中で出会ったという鬼は……」


 そこれ、俺もピンとくる。


「あぁ、あいつか……。これはあいつ由来だって? 確かに、そもそも強力な鬼で……鬼神と言われれば納得がいく存在感ではあったな。それにあいつは……千年もあの封印の中にいたわけで……。《虚空庫》の見覚えのないものの古さは、あいつのものだから……?」


 もしかしたら、俺に餞別に色々くれたというわけか?

 だとすれば気が利いている。

 ただ、この《鬼神切》というのは流石にくれすぎな気もするが。

 刀の最高峰か。

 今の俺に使いこなせる感じは全くしない。

 刀の方に使われるような予感しか。

 武具には妖刀のような、武具それ自体が意志のようなものを持つ物も少なくない。

 それは、道具が古くなればなるほど、付喪神化していくからだ。

 妖刀、と呼ばれるものは特に、人にとって害をなすようなあまりよくない意志を持つ物がそう呼ばれる傾向にある。

 手にした途端、家族を殺害し始めるとかそういう恐ろしい品もある。

 まぁ、その点で言うと、この《鬼神切》にはそういうところはなさそうというか、別に手に持っても俺の意志が乗っ取られるような事はないから割と性格のいい刀なのかな?

 いや、いざ戦うとなったときにこれを使うと、まずいことになったりする可能性も無しとは言えない。

 今は封印しておくべきだろう。

 いずれ、気術がもうちょっと使えるようになってからにしておいた方が良い

 気術は、そのような道具を御す術も含んでいるため、長ければ妖刀であっても扱えるようになるはずだ。

 

「お兄様。その鬼の遺産だというのなら、他の品も似たようなものなのでは……?」


 ふと、美智がそう言ったので、そこからは《虚空庫》から武具を取り出し、検分することにした。

 全てを見なければ安心できなかったので、怪しげな物全部だ。

 その結果……。


「……お兄様。全て、お兄様の《虚空庫》に封印しておいてください。どれか一つだけであっても、おそろしい奪い合いになりそうな品ばかりです」


 美智が呆れたようにそう言った。

 北御門家のトップからしても、とても扱いきれないような貴重なものばかりだったからだ。

 しかも、そのいずれも呪われた品である。

 普通の気術士が触れれば、いいとこ、暴走して暴れ回ることになるだろう。

 場合によっては意識全てを乗っ取られて妖魔化してしまうかもしれない。

 そんなレベルだった。

 なんてものを俺に残してくれたんだろうか、あの鬼は……。

 まぁ、いずれも使いこなせば復讐には極めて有用なものばかりだが。

 復讐を成し遂げると吹かすなら、これくらいのものは扱ってみろということだろうか?

 いいだろう。

 そのうち、全てを俺のものとしてやろう。

 そう、心の底から思った俺だった。

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