第23話 結果
手渡された短刀を手に持ち……そして気を注ごう、と思ったら、
「……武尊ちゃん! 利き腕はどっち?」
と美智に止められる。
それは別に本当に利き腕を聞きたいわけではなく、俺が気を注ぐ気配を察知し、それは駄目だと考えたからだろう。
そうだった、《後見役》の力を借りないといけないんだった、と思い直す俺。
「ええと、どっちも使えます……」
俺はいわゆる両利きだ。
まぁ、持つものによってはどっちかに偏ることもあるが、使おうと思えばどちらでも問題はない。
そしてこのことを、美智はよく知っている。
そして美智は左利きなので……。
「じゃあ、右手を私と繋いでくれるかしら。短刀は左手で持って」
そう言った。
他人の体の中の気を操るのには、やはり利き腕で触れているときの方がやりやすいからだ。
まぁ、今、俺に対してそれをやる必要は必ずしもないが、多少はやってみせないと、両親の目をごまかせない。
だから最低限、俺の真気に干渉するために、やはり利き腕の方がいい、と考えたのだろう。
俺は美智に頷く。
「はい、分かりました……」
そして手を繋ぎ、美智は言った。
「じゃあ、これから武尊ちゃんの体の中の真気を動かすわ……熱い感じがもしかしたらするかもしれないけど、それが真気だから、心配しないでね……」
これは本来、全く真気を使ったことのない人間に対して伝える言葉だ。
もちろん、俺にとっては意味がない話だが……。
ただ、やはり美智は自らの真気を練り、俺の真気へと干渉してきた。
繋いだ手を伝わって、美智の真気を感じる。
その大きさに、俺は驚く。
前世、十二、三歳の頃の美智の真気もかなり膨大だったが、今ではその頃に比べて数倍になっていることに気づいたからだ。
真気の扱いに長けていればいるほど、自らの真気の総量を他人に対して隠せるものだが、どうやら美智は今までそうしていたらしい。
その状態でも巨大に感じてしまうのだから、やはり美智は北御門のトップだけある、というわけだ。
前世の俺より少し大きいくらいだな……。
しかし、今の俺のそれは……。
「……ッ!? 武尊ちゃんの真気、まさかこれほどとはね……押し返されてしまいそう」
俺の真気に触れ、美智は目を見開く。
どうやら、口先だけでなく、本当に俺の真気を操ろうと考えていたらしい。
ただ、どうも無理だと気づいたようだ。
俺に目配せして、さぁ、真気を操ってと言っている。
俺も目線を返して、そのようにする。
真気操作は、気術士の基本だ。
そもそも、真気を認識するところから本来始まるそれだが、俺は既に感じることは出来ている。
次にすべきは、真気を寝る……錬気、と呼ばれる作業だな。
ただこれは修練が必要なので、《気置きの儀》では必ずしも必要とはされないが、やった方が操作しやすくなるのでやっておく。
そして、最後に練った気を使うわけだが、この使い方が色々あって、それを狭義の気術、というのだな。
真気操作自体まで含めて言う場合もあるが、それほど多くはない。
ともあれ、俺は練った気を、短刀へと注いでいく。
……うーん。
これは、良くないかもしれないな、とすぐ理解する。
練った気はそれほど多くはないつもりだった。
俺の持つ真気、その全体の何万分の一、の量だったのだが、それを少し注いだだけで、短刀の容量のほぼ全てを埋め尽くしてしまった感覚がする。
事実、それを示すように短刀は妙な光を発し、明滅していた。
「……た、武尊ちゃん……これ以上注ぐと、まずそうね……」
美智が引きつった顔でそう言っている。
「……そうなんですか?」
建前は美智が動かしている真気なので、そう言うと、美智は少し考えてから、
「ええ……でも、そうね。その短刀が耐えられてしまったら、私のを使う機会がなくなってしまうし……。やってしまおうかしら?」
そう言った。
確かに、そういう話だったな。
ただ、これでいけるのだったら、無理に目立つ必要はないんじゃないか?
いずれ俺は復讐したいと考えているから、北御門や気術士の世界でそれなりの立場になりたいと思っているが、今この時点で、となると少し面倒な部分も出てくる気がする。
そう考えると……。
「でも、美智さま。これでいいなら、その方が……」
そう言ってみた。
美智も俺の意図を察して、
「……それもそうかしら? でもせっかく作った短刀がもったいないし……まぁ、あげればいいかしら。でも、本番はここまででいいにしても、ちゃんと真気を注いだらどうなるか、試してみたいわね。これは壊れても良いもの」
まぁ確かに、限界みたいなのは知っておきたいな。
勢い余って失敗するかもしれないし。
そのとき、危険なことが起こってもここで何が起こるか分かっておけば対処可能だ。
だから俺は身に頷いて言った。
「じゃあ、美智さま。お願いします」
「分かったわ……じゃあ、やるわね」
美智が頷くと同時に、俺は注ぐ真気の量を増やしていく。
短刀の容量がパンパンになるまで注ぎ、さらに無理矢理入れていくと……。
──パンッ!
という音と共に、短刀の刃が砕けてしまった。
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