第16話 これからのこと

「……なんか、俺が殺されたことと言い、初代様が不遇なあちゅかいになっていることといい、北御門家って、運がない家なにょか……?」


 何か妙な血が受け継がれてしまっているような気がしないでもない俺だった。

 これに美智は笑い、


「まさか、そんなことはないでしょうが……。ですが、もし仮にそうであるとしても、もうその歴史は終わりにいたしましょう。少なくとも、我が家以外の三家の不手際は明らか。早速糾弾して……」


 そう言いかけたが、俺はそれを止める。


「いや、待ってくりぇ」


「……お兄様?」


「俺は、こうやって戻ってきたが、それはあいちゅらに復讐してやるためなんだ。それなのに、美智に全てをやってもらっては……その、困る」


 まぁ、もしかしたらそれでもいいのかもしれない、それもまた選択肢の一つかもしれない、とは思う。

 けれど、やはり俺は自分の手で、自らの無念を晴らしたいのだ。


「……お兄様。お気持ちは分かりますが……腐っても四大家のうちの三家ですよ? お兄様一人のお力では……」


「流石にそこまでは言わないさ。でも、美智だって力を貸してくりぇるだろう?」


「それはもちろんです」


 間髪入れずにそう言ってくれたことに、俺はほっとする。

 

「それに加えて、だ」


「はい」


「美智が仮に、俺が殺されたという話を声高に主張したとして、あいちゅらがまともに取り合うと思うか?」


 これに美智は難しそうな顔で、


「無理、でしょうね……。ですが、やりようはあります。そもそも、北御門一門は皆、信じるでしょう。そして、そこから広げていけば……」


 そう言った。

 俺が言うまでもなく、正攻法では難しいということは理解しているようだった。

 その上で絡め手でやり合う気、と。

 それもいいが……。


「やっぱりあまり急ぐと危険だと思うじょ。そのやり方だと、あいちゅらは普通に、北御門家を潰しに来るだろう。何か濡れ衣でも着せて、さ」


「その時は一門を挙げて戦います」


「……美智。勇ましくなったのはいいが……それだと大変なことになるだろう」


「いいえ、必ず勝ちます」


「いや、そうじゃなくてさ。俺たち気術士の第一の使命は、妖魔から一般人を守ること、だろう。四大家がいがみ合っていては……その使命はないがしろになってしまう……」


「……それは」


「確かに俺は復讐したい。けど、そこについては譲るつもりはないからな。俺の復讐でこの国の罪もない人たちに迷惑がかかるなら、あきりゃめるくらいのことは、出来る」


「お兄様……お兄様は、優しすぎます」


「そういうわけじゃない。俺は、曲がりなりにも北御門で育ててもらったんだ。何不自由なく。それは将来、妖魔と戦うため、人々を守るためにだ。それなのに、それをせずに復讐だけに邁進するのは……やっぱり違うと思うんだよ」


「……分かりました。私も、お兄様に従います」


「良かった。ありがとう、美智」


「いいえ……ですが、そうなると、どのように復讐を? 暗殺でもなさいますか? 一番手っ取り早いですが……」


 いきなり物騒なことを言い始めた美智。

 俺は慌てて首を横に振る。


「流石にそんなことはしないって。そもそも出来るのか?」

 

 これに美智は真剣な表情で考え込み、そしてゆっくりと首を横に振った。


「いえ、難しいでしょうね。そもそも、三家の当主達は皆、常に強力な守護を周囲に置いて警戒しておりますから」


「あいちゅらが……? まぁ、昔の四大家の当主もそれくらいのことはしてた記憶はあるが、一人になるときもあるだろう? たとえば今の美智みたいに、少し私用で出かけるときとか」


「それが、彼らについてはほとんどないようですね。思えば、当主になったときからそのような振る舞いで……なぜかと疑問だったのですが、お兄様の話を聞けば納得がいきます」


「どうしてだ?」


「……奴らは怖いんですよ。いずれ誰かが復讐にやってくるかもしれないと。真実を暴いて白日の下にさらすかもしれないと。それに怯えて、常に守護を外さないんでしょう。全く、臆病者とは奴らのことを言うのです」


「あぁ……なりゅほど。でもあいちゅら、かなり強いし、守護なんて置かずともなぁ……」


 腹の立つ奴らだが、才能と実力だけは本物だ。

 おそらく、現代ではトップクラスの術者であるに違いない。

 四大家の当主に収まっていることが、それを裏付けている。

 これには美智も頷いて、


「それは確かにその通りです。ですが、本質的な小物さがどうしても出てしまっているのでしょうね……」


 そう言った。


「辛辣だな、美智……」


「当然でしょう! お兄様をひどい目に遭わせて……唾棄すべき人間達なのですから」


「まぁ、そりぇはな。ともあれ、そういうことなら普通に暗殺なんて無理って事で」


「そうですが……では……?」


「そもそも、おりぇがこんなじゃ、復讐も何もないだりょ? まずは成長してからと思ってるんだ。気術も使えないしな……」


「あぁ、言われてみれば。こうして普通に話しているから、今すぐにでも事を起こせばと思ってましたが……」


「流石にそりゃ、無理だろう」


「そういえば、お兄様。その言い方ですと、気術を使えるかのようですか……? いえ、失礼を申しました」


 少し気を遣ってそう言ったのは、もちろん、美智は俺が通常の気術をほとんど使えないことを知っているからだ。

 しかし、今となっては話が違う。

 それについて美智に言う。


「いや、どうも今の俺は気術を使えるようになっている、らしいからな。どうも体が別のものになったから、前の体とは違うという話だった。温羅が言っていた……」


「そうなのですか!? でしたら……修行を?」


「あぁ、していきたいと思ってる。ただ、美智が見たとおり、俺の真気はちょっとばかり、大きいだろう?」


「ちょっとどころではないですが……」


「家でいきなり使うと、怖いからな。どうにかその辺をうまくやりたいと考えてるんだが……」


「あぁ、ここから出してもらえないと。そうですね、強力な真気を持つ子供は妖魔に狙われやすいですから、現代ですと、およそ三歳程度までは屋敷の外に出さないのが一般的です」


「三歳!? 昔は一歳とかで出れたんじゃ……」


「お兄様、五十年前とは大分変わったところがありますからね。その辺りの説明もしておきましょうか」


「あぁ、頼む」

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