第15話 四大家の歴史
「もちろんのこと、三人とも元気にしておりますよ。いずれもそれぞれの家の当主として君臨し、一門を率いています。それもこれも、五十年前に出現した大妖魔を封印・調伏したという大業を成し遂げたとされているためです……真実を聞くと、ろくでもない話でしたが。あの功績もなかったことに出来ないものかしら……?」
怒りを滲ませた声色でそう言った美智。
俺は彼女の話を聞いて、やはり生きていたかと納得する。
両親の話から、四大家が今も存続していることくらいは分かっていたが、断片的な情報ではどうにもあの三人がどうなったとか分からなかったのだよな。
それがこうもはっきり分かると、手っ取り早くて良い。
やはり持つべきものは妹である。
まぁもう少し成長して、ある程度複雑な会話が出来ておかしくない年齢になったら得られた情報だろうけれど、早めに得ておくに越したことはない。
「事実として、封印はしちぇるんだから、すべて嘘とは言えないだろうが……手柄を過剰に報告しすぎな感じはいにゃめないな……」
大体、俺の真気を使ってやっと封印できたんだから、その感じなら俺の功績が一番ではないか?
そんなことを思って俺はふと美智に訪ねる。
「おりぇについては、結局どんなあちゅかいなんだ? 殿として残ったことになってりゅのは分かったが……」
「あの三人は、その辺りも巧妙でしたね。お兄様の武名をむしろ強く褒め称えていましたよ。お兄様がいなければ全員死んでいた、それくらいに強力な大妖魔だった、とか、お兄様が時間を作ってくれたから封印をなんとかすることが出来たとか。ですので、北御門家の権威は他の三家と比べても全く落ちていません。むしろ、唯一、死者を出してしまい、大きな損害を受けた家として、他の家からは手厚い保障を受けました。それもあって、私はあの三人を半分信じてしまっていたのですが……」
「あぁ……まぁ、あいちゅら、馬鹿じゃないもんなぁ……。ってことは、俺自体について悪く言われてるとか、そういうことはないわけか」
「むしろ英雄扱いですわ。大きなお墓も建てられて……今度一緒に見物しに参りますか?」
「……墓。まぁそりゃ、死んだんだから、墓くりゃいありゅか……。自分の墓を見に行くとか、じょっとしゅりゅが……」
「確かにそうですわね。ただ、以前お持ちだった術具のいくつかが納められておりますので、ついでに取りに行かれたらどうかと思いまして……。そういえば、虚空庫に入れられていた荷物の類はどうされましたか? 虚空庫は個人に属する術であるため、術者が死亡した場合、二度とその中身を取り出すこと能わず、と言われておりますが、こうしてお兄様はここにおられるわけですし……」
虚空庫、とは前世、俺が唯一実用に耐えるほどの練度で扱えた術だな。
他の気術士も使えはするが、その容量は真気の量に比例するし、そもそもこの術の本家は北御門家だ。
そのため、北御門家の術士は皆、これが扱え、その容量は他家を優に凌ぐ。
そしてそうであっても、大抵の人間はせいぜい、背嚢十数個分が限界であるが、俺の場合は前世の時点で、体育館に収まる程度のものなら普通に収納できた。
これだけは自慢できる特技と言って良いものだった。
ちなみに、美智はそんな俺より僅かに小さいくらいで、彼女はそれに加えて普通に気術が扱えるので、術者としては確実に美智の方が上だったが。
そんなことを考えつつ、俺は美智に答える。
「そりぇなんだけど、気術はまだ、一度もはちゅどうさせてなくてな……」
「え、そうなのですか? それはまたどうして。虚空庫など、お兄様の十八番で失敗などまずしない術なのでは……」
「そりぇは確かにそうなんだが、お前も見ただりょ? 俺の真気を……」
「……あぁ、そういうことですか。あまりにも大きすぎるために、使用を躊躇しておられる?」
「そういうことだ……。さっき、少し解放したけど、ありぇって美智の言うとおり、ほんの一部なんだよな……覚醒の儀式の時、どうも地脈と俺の気脈が同化してしまったみたいで……」
「えぇ!? ということは……まさか、無尽蔵の真気を手に入れられた……?」
「やはり、美智は知っているのか。そういう例について」
「北御門本家に存在する資料のいくつかに、そのような実例がありました。当主のみ読めるものですが……」
「伝説じゃ、なかったのか」
「ええ。特に初代はそれが出来たようです。それもあって、北御門家を興し、その北御門の最初の弟子三人が、他の四大家を興して、今の四大家になったと」
「ありぇ? 全国から四人の有能な術者が集まって、そりぇぞりぇ家を興したんじゃなかったのか?」
少なくとも、俺は前世、そう教わったのだが。
しかし美智は首を横に振る。
「それは後に作られた方便です。四大家の始祖は、北御門。しかし、時代を下るにつれ、北御門の権威が徐々に落ちていき、そして他の三家と同等程度になった時点で、北御門が首座にあるとされるような話は他の三家にとっては都合が悪かったようです。そこで、この話については隠し、四家共々、対等のような話になってしまったようです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます