第7話 気脈とは
気脈とは、言うなれば血管に近い。
異なるのは、そこに流れるのが血液か真気か、そして物質としてそこにあるのか否かということだ。
他にも細かな違いはあるのだが、一番の違いはその二つと言って良いだろう。
全ての気術士はこの気脈を持ち、気脈を通じて真気を流し操ることによって、気術を使う。
俺も前世はこの気脈をしっかりと持っていた。
持っていたのだが……知っての通り、俺はこの気脈があってなお、真気を体外に放出することが出来ず、体内にあっても身体強化にも扱えずに、気術士としてまともな術を発動させることが出来なかった。
あれはどうしてだったのか、その理由は今でも分からない。
ただ、あの結界の中で出会った鬼──温羅によれば、体が変わったから今度は真気を操り気術を使えるようになってるはずだ、という話だった。
あいつの言うことをどこまで信じるべきかは微妙なところだが、俺がこうして転生できた理由……転生の術は、真気や妖気についてかなり深く理解してなければ扱えない術であることは間違いない。
しかも形成に五十年もかかるという大気術、精密気術だ。
はっきり言って、達人と言っても良いだろう。
そんな人物──人ではないけれど──の話であると考えれば、信憑性はあると言っていいだろう。
とはいえ、気脈というのは普通、覚醒の儀式を通じて授かるものだ。
赤ん坊の時点でそれを持っている者はいない。
だから今の俺には気術などほとんど扱えない……そのはずなのだが。
(……なんだか気脈が形成されているような? 僅かだけど)
そんな気がした。
気脈がなくとも、丹田には膨大な真気があることは理解していた。
これは、前世、俺が持っていた真気の量をそのまま引き継いでいるような気がする。
いや、むしろそれよりもいくばくか増加しているようだとも。
真気がどこに宿るのかは昔から議論になるが、魂に宿るとも精神に宿るとも言われていたから、魂が前と同じである以上、真気も引き継がれていると言うことだろうか?
そうとしか考えられない。
何にせよ、俺には十分な真気があるから、気脈には流せないにしても、ある程度操ることは可能だった。
丹田の中で練り込んだり、粘土のように形を変えて分割してみたり。
他にやることがないからこその、暇つぶしみたいなものだった。
けれど、そのお陰かどうか分からないが、俺の真気の量は日を追うごとに増えていった。
今では生まれた時点の数十倍に至っている。
前世の時点で、真気の量は膨大、と言われていた俺だ。
それが数十倍にまで達しているとなると……これはもはや、人の持てる量を超えている、と言っても良いと思う。
普通ならこれほどの真気を持っていたら、体の方が耐えられなくなって爆発四散していてもおかしくない。
だが、今の俺には何の問題もないのだ。
なぜだ?
そもそも、人間の真気を増やす方法は、ひたすらに術を使い続けることしかなく、しかもそれを行っても、ほんの数割増やすのが大抵の人間の限界であるとも言われる。
それなのになぜ俺は……。
さらに、僅かだができはじめている気脈。
これは多分だが、少しずつ、自分の体に気を流していたことが功を奏したのだろう。
当然だが、俺は前世、自分の体のどこにどう、気脈が走っていたのかを覚えている。
だから、それをトレースするように真気を流し続けた。
気脈の存在しない部分に真気を流すのは非常に難しく、中の詰まった袋に新たに何かを押し込むような圧迫感があった。
だが、僅かでも入らないわけではなかったから、それこそ暇つぶしにやり続けた。
結果として、少しずつ真気が流れるようになっていき、そして気づけばそこには道が出来ていた。
その道こそが、気脈で……。
もしかして、覚醒の儀式なんてやらずとも、気脈を完全に形成することも可能なのではないか?
この時点からそんな気がしていた。
だから俺は、その試みをやり続けた。
「……武尊、ごはんよ」
母である薫子に乳を貰っている最中には流石に無理だったが、目が覚めている限り、毎日毎日やり続けた。
そして数ヶ月が経ち……。
俺の体には、完全な気脈が形成されていた。
気脈にも精度があって、毛細血管のように、体中に行き渡っているほどに、質の良い気脈だと言われる。
俺はそのことも意識しながら、自分の体に真気を通していたから、完成した気脈は、今まで見たことがある誰よりも細かく、また頭のてっぺんから足の指先まで完璧に通ったものとなっていた。
俺はそれに満足したが、よくよく考えると少しまずい気もした。
なぜと言って、俺はまだ覚醒の儀式を迎えていない。
この状態で覚醒の儀式を行ったら、一体どうなってしまうのか、全く分からない。
しかし、あくまでもあれは気脈を形成するための儀式なのだから、すでに気脈がある時点で、何も影響はないのでは?
まさか、問題が起こる理由なんてないだろう。
だから、大丈夫なはずだ……。
俺はそんな、希望的観測を抱きながら、その日を迎える。
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