EP5




そしてそれから午後の講義も順調に読み続ける。しかし1話のボリュームがあり過ぎて結局夕方になってしまった。


 残り通常の一話分位なので、明日へ繰り越して今日は雄大とのんびり呑もうと近くの武蔵小〇まで移動した所でダラダラと過ごした。


まぁ内容はぼちぼち俺の愚痴と、雄大の泣き言の嵐だ。

 

その悲しい呑み話が3時間だぞ?3時間。とても正気とは思えんが、そのまま俺の家に泊まることになってよくある雑魚寝で夜を過ごした。



**

「あぁ〜頭痛え〜」


先に起きたのは勿論俺。激しい気持ち悪さと、何やら変な夢でも見たのか⋯⋯ビックリして起きたというのもある。


キュッと蛇口を止めて、自分の隈だらけの顔と地獄みてぇに飲み過ぎて死にかけている悲しき22歳糞童貞のクソ顔を鏡越しに見る。


「⋯⋯はぁ」


 背後で完全に潰れている雄大を見ながら溜息をつく。


俺は良い友達を持ったと心の底から思う。正直、ずっとビジネスというか、何処か上辺だと思っていた節があった。

 

 だからか──こうして何年も一緒につるんでると、離れたり、独占欲とまでは行かないが、ずっと一緒に馬鹿出来るような関係でいたいと思ってしまう。自分と遊ぶ事が一番優先であってほしい⋯⋯とか思ったり思わなかったり。


「たまには作ってやるか」


俺は励ましてもらったお礼に珍しくコンビニへ出向き、軽い素材を集めて調理クエストを遂行する事にした。



「あぁ〜うえ〜い〜詠視〜?」


寝ぼけながら寝返りを打つ雄大。そのまま腕を上げて詠視を呼ぼうと頑張って立ち上がる。


「ああっ?めっちゃいい匂い」


キッチンへと向かうと美味そうなレバニラ炒めと野菜が軽く並んでいる。そしてその隣には爽やかな笑みを浮かべて待っている詠視の姿があった。


「詠視が作ったのか?」

「あぁ、いつも助けて貰ってるお礼だよ」


不器用な詠視の言葉に「へっ」と鼻を鳴らしながら手洗い場で顔を洗い始める雄大だった。



---大学


あれから数時間が経ち、詠視と雄大は同じ選択講義を受けていた。雄大は真剣に講義内容をメモし、詠視は残りの小説を読んでいる。



ーーーーー


「やっぱり、俺にはこの方法しかないだろうな」


聖也は海の向こうから来ているモンスター達を見つめながら喜々として剣を抜いた。


皆──覚えておいて欲しい。


「ハァァァッ!!!」


聖也の剣からは海色のオーラソードが輝き、先頭のモンスターに向かって力一杯振り下ろした。


この世界で生き残るには──│±−:≠└→→−−◎◎−:・±−@⊆』◎±≠・≠だ。


他にもいくつかあるだろう。俺には仲間が必要だったと今更ながら後悔している。だが進むしか無い。例えどうなろうとも。


聖也は無限に続くとも言っていい程剣を振り回した。モンスターの死体と──────


⋯⋯⋯⋯略


「この世界で生き残るにはやっぱり─────だ!」


ーーーー


「え?おいおいちょっと待てって!」


思わずワッと驚いた詠視がスマホを落とし、かなり大きい声で発した為、教授の目が厳しく向いた。


「君、静かに」

「す、すいません⋯⋯はははは」


拾い直し、もう一度読む。しかし、これで終わりなのか?と詠視は何度も目を擦りながら画面を見直す。


「どうしたんだ?詠視」

「いや、ずっとこの作品と歩んだからか、最終回が呆気なさすぎるんだよ。嘘だろ?作者さん!こんな終わり方って無いぜ?」


マジかよ⋯⋯!!そんなのって⋯⋯!!


詠視は必死に指で追記が無いか、ノートで外伝や補填的なものが無いか再度確かめる。結果は勿論出ていない。


「まじかよ〜⋯⋯本当に?」


なんか終わらせようとしすぎてめっちゃ駆け足だったし、これじゃ納得いかないっすよ作者さん!俺の7年くらいの時間はっ!?作者さん〜!?


この作品が出てから初めて⋯⋯頼むコメントを打っている詠視。


ーーー最終話投稿お疲れ様です。

いつも楽しく読まさせてもらっています。続編や追加投稿等なんかはありますでしょうか?文句ではなく、少し駆け足のように感じてしまったので、ゆっくりでもいいので⋯⋯良ければ更に課金してでも読みたいと思います!どうか返信お願いします!


「失礼だとは思うんだけど、思い入れが強すぎて仕方ないよな⋯⋯」


この作品にコメントしても、いつも返事はなかった。だから今回も返信があるだなんて微塵も思っていなかった。


⋯⋯ピロンという音がなるまでは。


「え?」


詠視の悲しきスマホで通知がなるのは雄大の携帯からと、もう一つ。


ーーーコメントに返信があります


'え!?'


思わず叫びそうになるほどの衝撃を受けた。今まで一度たりとも返事なんて来なかった。そんな究極ツンデレ作者がコメントだと!?


講義そっちのけになって必死にipadに切り替え、更に返事を返す。


ーーーえ!?作者さんですか!?ありがとうございます!


'ふぅ'


やべぇ。就活より緊張するわ。


ipadを持つ手が今まで一番震えている。彼にとって、この作品が人生といえるほどモチベにして生きてきた生みの親が初めて返事を返したからだ。


恐らく多分、誰でも嬉しいだろう。


ピロン。


「ん?」


よく見ると、DMコーナーで通知がある。まさか?


ーーー初めまして、作者の0612です。ここまで読んでくださっていた方がまさか居たとは思っていませんでした笑 まさかこんな長いお話にお付き合いただけるなんて光栄です。


やべぇ泣きそう。

両目からは段々と涙が溢れてくる。まさか生みの親とお話できる日が来るなんて思いもしなかった。


ーーーこちらこそ!!作者様の書く熱い話に毎日読んでも飽きない位の気持ちでいっぱいです!


ーーー本当ですか、初めて言われる賛辞の言葉に作者も嬉しく思います。毎日読んでくださって本当に感謝の気持ちでいっぱいです。お陰で完走する事ができました。


ーーーやはり⋯⋯続きは無いのですか?


ーーーすみません。あそこはまだ完成していないん●●●●●●●●●●です●●


⋯⋯え?完成してない?


一呼吸置いた詠視の目が動揺を露わにする。


その場でもう一度読み直す。確かに書いてある、生き残る方法や、その他の情報も。だが一体何が完成していないんだ?


そう悩んでいる詠視の元に、追加でメッセージが飛んでくる。


ーーーそこはいつか分かると思います。ご報告になってしまうのですが、先日あるコンテストで私の作品が大賞を取ることに成功したんですよね!


⋯⋯え?そんな記事ないぞ?


片手を使ってスマホで即いくら検索しても、全くそんな話が出てきてこない。作者の嘘なのか?


ーーーすみません。それはなんというコンテストなのでしょうか?


ーーーあぁ、マイナー過ぎて誰も分からないようなモノですよ。


マイナーコンテスト⋯⋯か。


もっとこの人の作品が表舞台に出てくれれば、もしかしたらアニメ化して、カッコイイ姿も見られたかも知れないと思うと──なんか寂しい気持ちになってしまう。


ーーーそうなんですか。作者様の作品が、もっと大きな舞台で勝ち取るのを見届けたかったです。


本当だ。いつかこの作品が売れたらいいなって思ってた。だけど叶わずかな。


ーーーそう言っていただけて本当に嬉しいです。実は採用されたので、もうこの小説のデータを消さなければならないんですよね。


⋯⋯待ってくれ。


詠視はそう画面越しに顔を引き攣らせる。7年という長き思い出が一瞬で消えてしまうのかと思うと、そう言いたくなってしまった。


ーーーここまで読んでいる方がゼロだと思っていたところがあり、今こうしてコメントを読み返しながらえいたろうさんにメッセージを送らせていただいた次第です。

 

 ここまで読んでいただいたということなので、作者からしても少々あれだろうと考え直し、テキストファイルとしてこの作品をお送りいたしますので、良かったらまた読みたくなった時にでも読んでいただけると──作者も大変嬉しく思います。絶対に役に立つファイルなので、捨てないように気を付けてくださいね。


ここまで長々と書かせていただきましたが、7年という長い時間をこの作品に対して愛情を注いでいただいて、本当に有難うございました。


次回作は特に予定していないので恐らくもう現れないと思いますが、えいたろうさんの今後の活躍と健康を遠くから眺めさせていただきます。


それでは──遠くからあなたを見守っています。


作者──0612  [txtファイル]



「おい⋯⋯詠視、お前なんでそんな号泣してんだよ」


講義室で一人嗚咽に近い音を鳴らしながら超絶号泣している詠視が、鼻水をティッシュで拭きながら雄大を見ていた。


「だって⋯⋯作者さんが暖かいこというからぁぁ⋯⋯」


すぐに溜息をこぼす雄大だが、カバンにあるウェットティッシュを取り出してテーブルを吹き、更にアルコール消毒も忘れずにしてからアンティアを二粒出して詠視に手渡しする。


「ありがどぉぉ⋯⋯」

「就活で死にそうなやつがそんな言葉で号泣すんなよ」


やれやれといった口調で宥める雄大。

数分経ってから必死に長文で作者に対して返事を返し、詠視も講義に集中する─────ハズだった。




「今どこやってる?雄大?」

「はぁ?今はここだろ〜?」

「そうかそうか、悪いな」


ノートを開いてペンを取ったその時。


「⋯⋯ん?」


頭に突然ビリビリと電気ノイズのような音が聞こえる。頭痛か?


「どうした?詠視?」


ジジジ⋯⋯。詠視が謎の頭痛に襲われ、目の前の視界がボヤケていく。


「お、おい!」


[txtファイルをダウンロード開始⋯⋯⋯⋯完了]


なんだ?目がおかしい。変だ。


「詠視?」


[覚醒条件を達成した為、貴方に専用「「¥が登録されました]


専用⋯⋯?覚醒条件?なんでそんなゲームみたいな⋯⋯。


心の中でそう呟いた時、何故か頭の中で一つの文章が突然浮かんだ。


ーーーー

眠くなった。机に顔を伏せる。いつものようにダラダラと寝たまま過ごしていたそんな時に、突然目の前に何かか現れた。


2つの小さい角。


明らかにおかしい丈の黒スーツを身にまとい、柔らかそうな毛におおわれた謎の生命体が教壇の前で宙に浮かんでいた。


まずこの世界でこの生命体に名前はないはずだ。

宇宙人?いや、にしては怪奇的な面相。


何なんだこいつは。

ーーーー


あれ?これって⋯⋯確か小説の第一───。


突然教室の中が騒然と化した。原因は簡単。教授の隣には、謎の2つの白い角を生やし、マリ○のクリ○ー程しかない体長の可愛らしい生き物が、宙に浮きながら両手を組んで座っている数十人はいる人間達を一周見回している。


突然消火栓が起動し、ドアというドアが全て封鎖する。


「こんにちは!」


詠視の視界が徐々に戻っていく。だんだんクリアになって、ハッキリそれが見えた時には──とても信じられなかった。


ーーー

「こんにちは!僕はレプリア!」

ーーー


周りの大学生達は意味が全く理解出来ず、日本人らしい反応を見せていた。


『おいおい!すげぇ!マジでVR技術もここまで来たのか?』

『ARでももうすげぇよ!マジで分かんねぇ』

『扉も操れるとか、マジでVRだわww』


数人のチャラチャラしている大学生男子がその生物をケラケラ笑いながら展示物を眺めるように見ていた。


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