EP4



「チクショウ──先輩、どうしたらいいすか俺?」


雄大が見たこと無いくらい動揺しながら煙草を吸うその姿があまりにも新鮮で、こういう奴でも焦る事ってあるんだなと内心思いながら横目で聞いていた。



ヴヴン──。

車がある駐車場に止まり、エンジンが止まる。


「清水先輩、分かってますよね?そのご友人はどうするつもりですか?連れて行くなんて言わないですよね?」


'あからさまに嫌そうな目つきでこっち見てる〜'

コイツなんの組織に属してんだ?実は闇の組織⋯⋯ヤクザとか?麻薬売買の下請けみたいなところとか?


「すまん佐江原、詠視を見張っててくれるか?」

「なぁ雄大──」


その時、雄大の瞳がまるで別人のように冷たく、そして機械から感じるような無の瞳をしていた。


「悪い、ここからは本当にマズイんだ。来てくれて嬉しいよ。早く戻ってくるからそれまで待っててくれ」


今までにないほど冷たい瞳に、俺は黙って頷くしか選択肢がなかった。



**

'き、気まずい──'


あれから30分程車内待機をしており、少し窮屈な気持ちで雄大の帰りを待っていた。


「⋯⋯先程は失礼しました」

「あ、いいえ。何か悪いことをしたなのならすぐに謝ります、すみません」

「大丈夫です。あまり機嫌が良くなかったのでキツイ言い方をしてしまいました」


多分根は悪くないのだろう。雄大の面倒を見ている人なのか?一体何をしている人なんだろうか?


そんな疑問を抱えながら1時間後、自分の腹がギュルルルと嫌な警告をならした。


「さ、佐江原さん⋯⋯トイレありませんか?」


我慢しようとしたが、どうにも難しい。下痢は生理現象だから。


「⋯⋯どうしよう、仕方ありません」


そう言って嫌そうに扉を開けて外に出ろとリムジンから急いで出る。そのまま案内通りにトイレに向かい、すぐさま溢れる排泄物を穴から踏ん張って出す。


「はぁぁ〜」


あぶねぇ⋯⋯スッキリスッキリ〜。


残りのブツを踏ん張って出していると、数人の足音が聞こえた。もしかしたらと思い、俺は息を潜めその会話を目を瞑りながら聞いた。


「あれ?清水先輩急いでたけど、なんかあったのかな〜?」

「あの人確か2番隊でしょ?そりゃ大いに何かあるでしょ?」

「確かにね。どうやら突然数人が姿を消して、あちこちで大騒ぎ。まだちゃんとした話を聞いていないけど、なんかマズそうだよね」


'2番隊?ヤクザの暗号か?'


だがそれしか聞き取ることができず、俺はすぐにトイレから出る。外では佐江原さんが待っており、なんかの機械を一確認してから鼻息をならした。


「戻りますよ」

「すいません」


そのままリムジンへと戻り、5分もしない内に足早に雄大が入ってきた。


「悪い悪い〜詠視」

「大丈夫だよ」

「そうか。それじゃ一旦大学へと戻ろうか」


雄大の言葉と共にリムジンが走っていき、そんなに経たない内に大学へと到着した。講義を聞きながら、俺は自分なりに雄大の状況を考えていた。


もしコイツがヤクザとか変な闇組織の一員なら、わざわざ俺を乗せてまで行かないよな?となると⋯⋯


詠視はトイレで聞いた話を思い出していた。


──2番隊だったよな?


2番隊⋯⋯。

これが鍵になるのは間違いない。2番隊⋯⋯一体何の意味がある?2番⋯⋯2番⋯⋯あー!訳わからん!


講義を聞きながらちんぷんかんぷんな詠視。

だが、なんの気まぐれか、咄嗟に何かを閃く。


後居なくなった⋯⋯って言ったよな?つまり⋯⋯っ!


2番隊というのは何かのグループの上から2番目という意味で、その中では雄大が上の役職についている。そんで、"あの人"って言ったよな?これで何となく掴めた。


雄大は幹部だが、一番上では無い。その一番上が突然連絡もなく消えたって事だ。あのチャラけた雄大があんな顔をしたり、尊敬しているっぽいあの眼差しは、多分そういう事なんだろう。


「はぁ〜お前も大変だな、雄大」

「はぁ?なんだよ突然」

「いや、なんのあれか知らんけどさ、好きな奴が消えると焦るよな」

「い、いや⋯⋯その次元ではねぇけど、まぁ良いだろ〜?」

「それもそうだな。なんか今日良い気分だわ。いつも優越感たっぷりなお前が、めちゃくちゃ人間っぽい所が見れたから。久し振りに呑みでも行くか?」


コップを口に付けるような仕草を軽く見せながら、悪友に見せるような笑みでそう上擦った声で話す詠視。


「それもそうだな」


鼻で笑いながら詠視の方を向き、なんとか安心しようと雄大は穏やかそうな笑みを見せた。


そんな雄大だが、何かに気付いて詠視のスマホを見ながら指摘した。


「そういや、今日も投稿されてんじゃないの?小説」

「あっ!忘れてたわ」


そうだった。珍しい事件があったから忘れていたが、俺はいつも講義中に小説を読むのがルーティンだ。


その方がしっかり目を通せるし、気分が良くなるからだ。


「流石に年季の入ったもんに茶々入れる気はないから、楽しめよ」


雄大が当たり前のようにそう言い放ち、講義に集中し始めた。


いつも思う。コイツはチャラけた雰囲気を持ってはいるが、肝心な時はすぐに引くんだよな。本当こういう所は尊敬というか、なんというか。


「ありがとよ友よ」


お互いに軽く鼻で笑い、俺は手元にあるスマホを点けて小説のページを開いた。


スマホに映し出された通知には「6120,最終話」と書かれてあった。いや実に長い物語だったのではとすら思う。


しっかり登場人物ひとりひとり最後まで書かれてあったし、妙に地名とか流れとかがしっかりしてて、ちょっと怖かった時もあったくらいだ。


「マジか」


話数の隣には「63480」という脅威の文字数が表記されていた。最終話だからか少し動揺はしたが、すぐに開いてこの作品と歩んだ最後の一人として見届けようと思う。


'とりあえず読むか'


そうして詠視は長い一話の最初の文に目を通し始めた。

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