EP3 




『お前内定は?』

『いや、2社だけど⋯⋯まだ不安だからもう一個受けて、明日最終』

『マジかよwwそんだけ受けたのかよ〜!』


青年達がダラダラと喋っている中を通り抜けて席に着く山元。席に着くなりすぐに机に突っ伏して関わらないように寝たふりをかます。


周りの人間達は誰もそんな山元の様子に気に掛ける事をしないが、そんな山元を見た一人の男が山元の方を向きながら軽く紙切れを投げる。


「ん?」


起き上がって周りを見回すと明らかに変顔しながらこちらを向く人影があり、その人物を見てすぐに寝直した。


「おいっ!何で無視すんだよ詠視!」

「うるさいな〜、どうせお前も馬鹿にしてんだろ?」


突っ伏しながらそう弱々しい声で返事をする詠視の上から、両手を使って強制的に起き上がらせる男。


その男はチャラそうな雰囲気があり、髪型はホストっぽい襟足長めの茶髪に、全身真っ黒なセット。身長は175はある普通のチャラ男。


「なんだよ⋯⋯雄大」

「詠視落ちたのか?」

「⋯⋯⋯⋯」


反応を見た雄大の表情は、同情するような顔をすることなくゲラゲラ笑い出す。


「はっはははは!まぁそんな落ち込むなって!」

「落ち込むだろ」


一呼吸置いて詠視がそれだけボソッと吐き捨てる。雄大が隣に座ってスマホをいじりだす。


「雄大、お前早く席に戻れよ」

「え〜?ここでいいや!」


'今お前の相手をしていられるほど暇じゃないんだけど'


⋯⋯色々な意味で。


「それで〜?詠視の性格だから、どう⋯⋯せインフルエンサーとかでも見ながら不安を解消する〜!とか言いながら見漁ってるだろ〜?」


脳天気に言う雄大。


'こういう奴に限って妙に鋭い'


溜息をつきながら目の前にいる輝くオーラを出しながらスマホを弄る雄大を見つめた。


「なんだなんだ〜?女紹介しろって?止めてくれよ〜」

「違うよバーカ」


説明し忘れたが、コイツは清水雄大。俺と同い年の22だ。俺と違ってコイツはど派手で、いつも明るいグループに属してる。正直言って同じ空間にいるのも嫌なくらいだ。


だがそんな雄大だが、出身がかなり近くてたまたま大学で話した時に盛り上がったのだ。


 コイツのトーク力に負けて、二人で格ゲーをオンライン対戦でする事になった。そこから意外とコイツが陽キャラだが、ヲタクっぽい趣味も持ち合わせてると知り、つい話し込んだのもあって結構仲良くなってしまった。


まぁそんな雄大だが、コイツ⋯⋯ちゃんとハイスペックなんだ。なんか?秘密の仕事をしてるとかで、俺と同い年にも関わらず年収4000万程稼いでるらしい。信じられないだろ?


何で稼いでるんだ?と質問しても、「悪いな」と両手を合わせて謝ってくるんだ。だから何時も俺は「危ない事ならさっさとやめとけよ?」と釘を刺している。


だから少しムカついているが、コイツが本気で言ってる訳でもないのももうそろそろ3年とかになる付き合いから分かってはいる。だがまぁタイミングが良くない。


「すまん、割としんどいんだよね」

「⋯⋯ん?一つだけなのか?」

「あぁ」

「あんだけ他のところにも連絡しとけって言ったじゃんか」

「分かってるよ」

「ッたく⋯⋯まぁ、浪人路線にはなるだろうな」


'うるさい⋯⋯'

そう思う俺だが、コイツが心配してくれてると思うと俺も逆の立場だったらなんて言えばいいか分からん。


すると雄大の携帯から着信音が聞こえた。曲は今にしては珍しいダー○ベイダーのテーマといえば分かるだろうか?そんな着信音が鳴った。


「おい、鳴ってんぞ?」


俺がそう声をかけても鳴り止まない。


「おい?雄──」


突っ伏していた状態から顔を上げたその時、俺は初めて雄大のこめかみから脂汗が頬を伝っているのを見た。


「お、おい⋯⋯大丈夫か?なんか⋯⋯あったのか?」

「わっ、悪い!ちょっと今日は帰るわ!」

「待てって」


立ち上がる雄大の腕をつかむ。


「お前顔色明らかに悪いって、いいから話してみろよ。なんだ?闇金とかそんなか?」

「ち、違う、仕事関連だ」


そう声を震わせながら喋る雄大に俺はマズいだろうと立ち上がる。


「いいよ。俺もついて行ってやる。俺も最悪の気分だが、どうやら雄大も優れないようだからな」

「ち、違うんだよ。本当!」

「確か秘密なんだったよな?良いよ。俺もそれに加われば教えてくれるんだろ?」


理解を示しながらスラスラ話すと、深々と溜息をついている。理解できない俺はすぐに首を傾げてみせる。


「なんだよ?危ない事はするなって言っただろ?何やってるんだ?」

「とりあえず明日でいいか?緊急なんだ」


'う〜ん'

明らかに態度がおかしい。なんか見られたくないのか、知られたくないのか⋯⋯なんだろう?嘘を吐くやつの表情っつーか⋯⋯てか俺が良くやる常套手段だしな。


「いや、それは顔を見れば分かるだろうけどさ、明らかに普通じゃねぇよ?その脂汗。人が死んだみたいな●●●●●●●●●顔をしてんじゃんか●●●●●●●●●


そう俺が言うと、更に動揺を隠せずにこちらを見ている。

図星か?


「とりあえずまだ1限だし、三限まではついて行ってやるから」

「わ、分かった──ただし近くまでしか来ちゃだめだからな?」

「はぁ?それじゃあ意味ないだろ?──っておい!」


何を隠したいのか、雄大は俺の腕を掴んですぐに大学から急いで出る。


「お、おいって!」


'コイツ、腕ほっそいのに何処から力が湧いて出てくんだよ!'


そう思った次の瞬間、キャンパス前にキィィィと漫画でしか見たことのないような止まり方をする一台の黒いリムジンが現れた。


「おい──まさかあれじゃねぇよな?」

「あれだよ──だから言っただろ?帰るなら今だ」


'そういう言い方したら引くにひけねぇだろ!'


「行くに決まってんだろ!友達だろ?」


俺の言葉に一瞬動揺した雄大だったが、そのまま元の表情に戻してリムジンへと乗る。


「佐江原さん」

「お疲れ様です清水先輩⋯⋯そっちは誰で?」


'うわぁー'

そう言いたくなるほど美しい美貌。なんなんだ?雄大の奴⋯⋯こんないい女と仲いいのか?てか、先輩とか言ってなかったか?そうだ!


「雄大、どこに行くんだよ?」


そう俺が言うと、その前にいる綺麗な女の人がキッと怖い形相で俺を睨みつけてくる。思わずチビると思うくらい怖い圧力がこの女の人にはあった。


「佐江原さん」

「失礼しました」


'な、なんなんだ?この関係性は'

もしかして、雄大ってめっちゃ生まれが良くてそこの許嫁とか?でも先輩って言わねぇよな?


「コイツは、とにかく口が堅い。だから今聞かせてくれ。──あの人が失踪したって?」


信じられないといった様子の雄大が広げた腿の上に肘を乗せて、掌で顔全体を覆う。


「はい、先程念の為にいた護衛達も驚いていました。突然光り輝き、次の瞬間には跡形も無く消えたと」

「⋯⋯それはいつ?」

「一時間前です。護衛達もすぐに動いたようですが、それらしい証拠も出なかったみたいです」


一分程沈黙の時間が流れる。俺は地獄みたいに重い空間に耐えるのに精一杯で、気付けばまた話し始めている。


「それで?関西支部とアメリカの基地からは何かありましたか?」

「関西も同じ反応でした。アメリカの方は時差と何故か連絡が途絶えています」


無言で雄大が窓の外を見ながらポケットを触っている。


「どうした?」

「煙草」

「お前煙草吸うの?」

「まぁ普段は見せないようにしてる。嫌煙家多いから」


そう言って火をつける雄大。悔しいけど、イケメンだと何でもかっこよく見えてしまったのは秘密で。


「マジかよ⋯⋯同時に消えるなんて事あんのか?」

「とにかく、一度本部に来てもらう必要が」


そう佐江原という女の人が堅い口調でそう言うと、すぐに頷いて車が急発進した。

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