第3話 焚き火の話

 子供のころ私は、山だの川だの海だのがわりと近いところに住んでおりました。


 中学3年生の一時期。私は放課後、友達と自転車をこいで海岸に行くことがありました。

 丸い石で覆われた海岸にはゴミがたくさん落ちていまして、当時の私達はよくそれを集めて焚き火をしていたんですね。

 焚き火で何をするかと言うと、スーパーで買ってきたロケット花火を投げ込むのです。

 ロケット花火とは細い棒の先に火薬と導火線が付いたもので、本来なら地面に刺したりして飛ぶ方向を定めるのですが、それを無造作に焚き火へポイとやるわけですよ。

 そして我々は一斉に逃げます。

 まるで打ち合わせを終えた忍者のごとき素早さで散っていくんですね。

 なにせ数秒以内に着火するのですから必死です。火のついたロケット花火は、目でも追えないほど恐ろしい速さで四方八方に飛んでくるので、それはそれはスリル満点でした。

 私達をスレスレで通過し爆発することが何度もありました。

 ケガに至らず良かったものです。


 さて、ロケット花火を使い切ってしまうと、私達はその辺をうろつき、捨てられたスプレー缶やガスコンロのボンベを探します。

 そうです。やはり焚き火に投げ込むためです。

 拾った缶にも少しはガスが残っているため、熱せられると大爆発を起こすのです。これがまた凄い迫力でした。

 缶によって反応は違い、熱で空いた穴から炎を噴き出す「ゴジラ」や、恐らくは5、6mに達する巨大な火柱「キノコ炎」など、何が起こるかわからない恐怖が醍醐味でした。


 そんなことをして遊んでいたある日のこと。

 いつもの如く焚き火にスプレー缶を投げ込み、我々は急ぎ逃げました。

 海岸の低くなったところに並んで身を隠し、爆発を待ちます。

 しかし、しばらくしても何も起こりませんでした。

 この遊びの欠点は、缶が何らかの反応を起こすまでは焚き火に近寄れないというところです。

 待つこと数分、私達はギョッとしました。

 海岸を歩く1人の男の人が、焚き火に向かっていくではありませんか。

 手には拾ったゴミを持っています。たまたま見つけた焚き火に投げ込もうというのでしょう。

 私達は焦りました。

 もし今缶が爆発したら大変なことになります。「ゴジラ」ならまだしも「キノコ炎」の場合、最悪の事態もあり得るのです。

 ここから叫んで、男性に逃げるよう促すか。そう考えもしましたが、私は躊躇しました。

 焚き火大爆発の可能性について、遠くからどう説明すべきかわからなかったからです。

 まあ良くない遊びだということは理解していたので、この期に及んでもバレたくなかったんですね。

 他の子達も同じ考えだったようで、皆一様に爆発が起こらないことを祈るばかりでした。

 万が一の場合、我々はどのような責任を負うのか。たとえ逃げたとしても、その罪を一生背負うことになるのか。様々な未来が私の頭を駆け巡りました。


 その後、結局スプレー缶は不発に終わり、遠ざかっていく男性を見つつ非常に安堵したのを覚えています。

 皆さん、危険なイタズラはやめましょうね。

 それではまた。


予告

 次回のチャウチャウ座は。

ついに殺人事件の真相を突き止め、容疑者達を部屋に集める『赤ちゃん探偵』ベビ郎!

 華麗なる推理を披露し始めたのだが、「過酸化水素水」をどうしても「かちゃんかちゅいちょちゅい」と言ってしまう。

 しかし今さら「オキシドール」と言い換えることもできないベビ郎は、一同から失笑を買うなか、ひたすら屈辱に耐えるのであった。

次回「次笑った奴が犯人な!」の巻

 バブバブ、ブー!

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