第2話 怪奇 コンニャク地蔵について
小学校のとき、通学路の途中に木のツルでできた2、3mくらいのアーチがありました。子供達はそれをトンネルと呼んでいたのですが、なぜか一部の子はそこを通るときに急いで駆け抜けてるんですよね。
私が友達にその理由を聞いてみると「あのトンネルは呪われていて、息を止めずに通ると死ぬからだ」って教えてくれました。
なんで呪われているのかを更に尋ねたところ、「昔ここで死んだセミの霊がいる」とのこと。
セミかあ、と思いました。
どうもオジョです、こんばんは。
子供って呪いとか怪談とか好きじゃないですか。
私の通っていた小学校にもいくつか不思議スポットがあったんですけど、3年生のとき、新たな仲間が加わったことがありました。
まず、私の小学校には校庭の隅に木で覆われた一角がありまして、木の葉の屋根があるので昼でも薄暗いところでした。そしてその更に隅っこにぽつねんとお地蔵さまが立っていたんですね。
身長は50cmくらいでしょうか、今見ればもっと小さいのかもしれません。どういう理由で置かれているかは多分誰も知らなかったんですけど、とにかくあったんですよね。
それがある日とつぜん「コンニャク地蔵」と呼ばれ一躍脚光を浴びることになったのです。
地蔵は石ですので当然カチカチなのですが、それが夜中になるとプルプル震えだし、気味の悪いクネクネダンスをヨナヨナ踊る、というのです。
「地蔵のダンス」というミスマッチな組み合わせは怪談としては微妙ですが、一方で妙なキャッチーさがありましたので、休み時間になると地蔵のまわりに人だかりができるくらい当時の児童の心を掴みました。
みんなでツンツンと地蔵をつつき、やはり石であるなあなどと言い合っていたのです。
私も大いに魅了されました。コンニャク地蔵に関する情報を知りたくて、いろんな友達に聞きまくっていたんですね。
だけど不思議なことに、というかまあ当然なのですが、踊る地蔵をじかに見たという子は1人も見つけられませんでした。まず夜中に学校に来る子供なんていないのです。
ではなぜ、そんな怪談が生まれたのでしょうか。まったくの創作にしては怖さが足りません。きっと何か誕生のきっかけがあるはずです。
そう考え独自に調査を進めていたところ、なんと私は怪談の出どころをついに突き止めたのです。
これは私の一つ上、4年生の女子のお兄さんが体験したことです。
彼は学習塾の帰り道、夜8時半くらいに学校の裏側の道を歩いていたそうです。
ふと耳慣れない音が聞こえてきました。
そこは例の、校庭隅の小さな森の裏に位置する場所です。暗がりの中からペチペチという、湿ったもの同士を打ち付けあうような音がしたそうです。
金網越しに目を凝らしてもよく見えません。音だけが聞こえるのです。
やがてペチペチ音はパンパンという激しいリズムに変わり、それからしばらくすると音は突然止んだといいます。
私はその話を聞いて合点がいきました。
つまり推理するところ、最初は怪談ではなく、少年の聞いた不可思議な音の噂だけが広まったのです。
そして彼のいたところが地蔵の裏側であり、それから、湿った音+地蔵の灰色がコンニャクを連想させたため、結果、踊るコンニャク地蔵が生まれたというオチに違いありません。
怪談とはこうして出来上がるのかと、私は幼いながらに感慨深く思ったことを覚えています。
しかし大人になった今でも、少年が聞いたという不思議な音の正体だけはわかりません。
心当たりのある方がいらっしゃいましたら、教えて頂けると幸いです。
それではまた。
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