第6話 パニック

自室にこもって色々考えてみるも、憎しみを消す方法は浮かばない。むしろ、憎しみの感情は増えていくばかり。


1時間ほど考えたが、解決策は見つからず。なにがキッカケでこれほど憎んでいるのか忘れそうになるほど、憎しみの感情だけが強く心に残っていた。


誰かを憎らしいと考えていると、自分の心が壊れていくのだろうか。次第に呼吸が苦しくなり、私は少々パニック状態に襲われた。


「ふぅ~、ふぅ~、ふぅ~」


と、何度も深呼吸を繰り返し、必死に呼吸を落ち着ける。呼吸が苦しくなったことに加えて動悸も始まり、喉元がぐるぐると気持ち悪い感覚へと陥ってく。


心臓に蓋がされたような、心臓のいる部屋が狭くなったような感覚。深呼吸を試みるが、上手くできない。いつもはもっと酸素を取り入れている感覚があったが、今は普段の3割ほどしか酸素を取り入れることができていないようだった。


いつものように呼吸ができないことに焦っているのか、動悸も激しさを増していく。胸に手を当ててみると、ドクドクと切れ間なく心臓が鼓動している。気分的なものなのか、めまいのような症状も覚えた。


目の前の景色がゆっくりと横に動いている感じがする。どこかのアトラクションのような激しさはないが、ゆっくりと床が動いている。私はさらにパニックになり、思わず額をかきむしった。


私は壁にもたれかかるようにしゃがみ、目を閉じた。


「はぁ、ヤバい・・・」


気持ち悪さも増し、私は独り言を呟いた。この状況がどうやったら解決するか分からず、不安が募っていく。


1分ごとに目を開けたり閉じたりして、体勢を少しずつ変化させてみること10分。試しにギュッと強く目を閉じてみると、少しめまいが治った気がした。


目を開けた後、視界がテレビの砂嵐のようなものに覆われていたが、少しずつぼやけながらも視界が回復していく。


もう1度ギュッと目を閉じると、今度はまぶたの上が痛んでいることに気づいた。私は手のひらで優しく押さえると、ジュワーっとなにかが溶け出すように痛みが逃げていく。


痛みが一通り逃げたと感じたところで再び目を開けると、先ほどよりは砂嵐の範囲が狭くなり、視界が徐々に戻っていった。


それと同時に、動悸も急に収まり、気持ち悪さもピークを越えた感じがした。呼吸も10分前よりは楽にできるようになっていた。


一体、私の体になにが起きたのか。まだ乱れている呼吸を必死に整えながら、考える。


「憎しみの影響なのか・・・?」


ふと、答えが見つかったような気がした。というより、よくよく考えてみればそれしか答えがなかった。私の心が普段と違うのは、憎しみの感情に覆われているという点だけ。それ以外は、全ていつも通りだった。


人生の宝物のように愛していた弟。それがちょっとした出来事で憎しみの感情が生まれ、あっという間に心が憎しみに覆われた。そして、私の心を壊そうとしているのだろうか。


愛と憎しみ。正反対の言葉だと思っていたが、微妙な感覚で保たれている。その感覚が少しでも崩れた瞬間、ここまで人は憎しみの感情を抱けるのだろうか。




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