第13話

 カップの上にコーヒーを入れたドリッパーを置いて、お湯を少しずつ注ぐ。無になってお湯を注ぐことに集中する。毎朝の心を落ち着かせる儀式だ。


 ーー大丈夫。どっちに転んでも私は大丈夫。


 平常心に戻った私は、コーヒーを飲みながら、今日の仕事の流れを確認する。


 今日は、競合他社とのコンペがある。企画一課の今年度目標達成に直結する大事なコンペだ。綿密なプレゼン準備をしたから、コンペを勝ち抜く自信はある。昨日は早く寝たから体調も万全だ。


 その日の自分の状態でのベストを尽くす。


 これも年末年始休暇に学び、今年から始めたことだ。


 完璧主義の私は、時々、できない自分に苛立ってしまう。しかし、調子が良い日もあれば調子が悪い日もある。その日の自分の状態でのベストを尽くせればいいのだ。


「白崎さん、おはよう」


 佐々木さんがカフェテリアに来た。


「おはようございます」


「今日はコンペだね。緊張してる?」


「少し。でも、しっかり準備したので、勝ち抜きます!」


 おどけてガッツポーズを見せる。


「白崎さんなら大丈夫よ。私、全然心配してないから。楽しみにしてるね」


 そう言うと、佐々木さんはコーヒーも入れずに去っていった。


 きっと、私を励ますためにカフェテリアまで来てくれたのだ。さりげない佐々木さんの心遣いに心が温かくなる。

 

 

 プレゼンは上手くいって、コンペを勝ち抜いた。


 佐々木さんや同僚達も拍手をして喜んでくれた。


「今日は私がおごる! みんなで飲みに行こう」


 佐々木さんがそう言うと、同僚はさらにテンションが上がって「いぇい!」とガッツポーズ。


 プレゼンに勝ち抜いて、企画一課の士気が上がったのか、同僚達も次の大手新規顧客へのコンペ準備に取り掛かり始めた。


 その日の飲み会に佐藤さんは参加しなかった。

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