第10話

「知ってた? ゴリラって、ああ見えて実はすごい繊細なんだよ。狂暴なのはチンパンジー」


「えっ、そうなんだ。意外だね」


「温和で争いが好きじゃないから、我慢するんだって。よほど危機的状況ではない限り戦わないらしいよ。警戒心も強いから、ストレスを感じてすぐに下痢気味になって、それが病気の原因になって死に至る場合もあるらしい」


「えっ、ストレスで死に至るって、すごい繊細なんだね」


「そう。ゴリって顔彫り深いし強そうに見えるけど、実は結構繊細だよね。ゴリラの性格知った時に、ゴリじゃんって思ったんだ」


「私、繊細かな?」


「繊細だよ。セクハラにパワハラでしょ、その上司。私だったら、さっさと人事に相談して、なんとかしてもらう」


「人事に相談?」


「そう。企業のコンプライアンスって、今結構話題になってるから。人事に相談したら、解決するかもよ」


 企業の人事部で働いている美香は、最近の事情に明るい。


「そうなんだね。でも、告げ口みたい。さらにエスカレートしそうで怖い」


「まあ、エスカレートすることもあるにはあるらしいけどね。エスカレートしたら、それまでの会社だった、って見限って転職すればいいじゃん。このままだと、ゴリもその同僚みたいに、うつ病になっちゃうかもよ」


「そうだよね。すでに結構きてる。毎朝会社に行くの憂鬱だもん」


「うん、人間関係って重要だからね。その上司に直接話しても聞いてくれなそうだし、人事にどうにかしてもらうしかないね」


「ありがとう。なんか前向きになってきた」


「全然いいって。飲もう飲もう」


 会社外の人に佐藤さんのことを相談してよかった。今度、人事に相談しようと決めると、気分が晴れて、朝まで飲み続けた。

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