第8話
寒くなってきた十一月。佐藤さんから企画部全員にメールが届いた。
『柿口さんは、医師に休業を要すると判断されたため、本日から休職して療養されることになりました。柿口さんが担当していたプロジェクトについては、引き継ぎ先の方へ個別にメールいたします』
――うつ病だ。メールを見た瞬間にわかった。きっと部のメンバーも気づいているだろう。
柿口さんは佐藤さんに面と向かって意見を言える人だったから、強い人だと思っていたが、やはり、精神的に参っていたのだ。
その週の企画一課の会議で、佐藤さんは柿口さんに関することを一切言及せずに、何もなかったかのようにふるまっていた。
面接のときはフレンドリーで話しやすいと思った佐藤さん。実際に働きだすと、自分の意見に反対する人は徹底してつぶす、一対一の飲みを断っても誘ってくる、そういう佐藤さんの性格が見えてきて、佐藤さんに対しての嫌悪感が募っていった。
――――――――――――――――――――
年末の忙しい時期に、また佐藤さんから企画部全員へメールが送られてきた。
『僕が以前働いていた職場の同僚も呼んで、忘年会をやります。仕事の後なので業務外です。参加できる人は連絡ください』
メールにある「業務外」という言葉は、私が以前飲みの誘いを断ったときに言ったものだ。私を意識して誘っているのか。もちろん行きたくないので、返信をしなかった。
数日後に佐藤さんから個人あてにメールが届いた。
『会場の予約しなくちゃいけないから、今日中に参加可否教えて』
参加できる人は連絡ください、と書いてあったから、参加しない人は連絡しなくてよいと思い返信はしていなかった。
『参加不可でお願いします』
簡潔に返信すると『了解』とメールがすぐに返ってきた。
これで、断ったのは三回目。もう誘われることはなくなるだろう。安心して途中だった仕事に取り掛かった。
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