第15話 騎士王はヒーロー
ヴィオレッタは大きな柱に身を隠すと、そっと顔を覗かせる。人通りが全くない空間で、ひとりの女性を取り囲み襲っていたのは、正式な騎士服をまとった四人の男たちであった。どうやら酒に酔っている様子。騎士ともあろう男たちが、なんとも
(どこの誰か知らないけど、感謝してほしいものね)
ヴィオレッタは意を決して、柱から姿を現す。そして騎士たちの元に向かう。堂々と胸を張って歩く姿は、女性からすれば救世主の如く見えたことだろう。
「獣と化した騎士とは……この帝国も落ちぶれたものね」
ヴィオレッタの美声に、女性を取り囲んでいた男たちは振り向く。ひとりの男がフラフラとした足取りで、ヴィオレッタに近寄ってくる。しかし、彼女は怯まない。それどころか、威圧的な雰囲気を醸し出し、睨み上げる。
「おうおう、随分と可愛い正義のヒーローちゃんだなぁ」
「なんだなんだ? 巨乳ちゃんが相手してくれんのか?」
「これは巨乳じゃなくて爆乳だろ!」
「ハハッ!! 間違いねぇ!!!」
「ふたりまとめてヤっちまうか?」
次々と騒ぎ出す男たち。下品極まりない言葉の数々だが、ヴィオレッタは動揺を見せない。襲われていた女性は、顔色を少しも変えないヴィオレッタのことを一心に見つめていた。
「そんな
「あ゛…………こいつ、どこかで見たことあると思ったら、あの悪女か?」
「あら、私のことを知っているのね。あなたたちのお遊びに付き合ってあげてもいいのだけど、あいにく私は粗末なモノをぶら下げている男とは遊ぶつもりはないの。ほかを当たりなさい」
ヴィオレッタは、哀れみの目で、男たちの服に包まれた下半身を
「クソ女がっ!!!」
ルカと同じ
男としての象徴も小さければ、人間としての器も随分小さいものだ。
ヴィオレッタが男たちを鼻で笑い飛ばした時――。突如として、彼女に殴りかかってきた男が文字通り吹っ飛んだ。
「今日はどういうわけか、
ルカだ。ルカが助けに来てくれた。ヴィオレッタは、少しも頼んでいないのに、と可愛くないことを思いつつも、嬉しく思っていた。
ヘティリガ帝国騎士団の頂きに君臨する《四騎士》。その一柱に名を連ねるルカの姿に、男たちは腰を抜かす。酒に呑まれていても、騎士団の最上位の人間のことは認識できるようだ。
「おい、誰も座れなんて言ってねぇだろ」
怒り溢れるターコイズブルーの光が男たちの心臓を貫く。言い表し難い威圧感を浴び続けたからか、三人の男は泡を吹いて意識を失ってしまう。先程までヴィオレッタを見つめていた女性は、既に姿を消してしまっていた。
殺気だけで三人もの男を意識を奪うことができるとは、騎士王の名は伊達ではないとヴィオレッタは
「………………」
「………………」
ふたりきりとなった空間に、長い沈黙が流れる。ヴィオレッタは、いくら仲が悪いからと言って感謝をしないのは違うだろうと思い、そっとルカの手に触れた。ビクッと震える彼の手は、なぜか汗ばんでいるが、ヴィオレッタはそんなことは気にならなかった。
「助けてくれたこと……感謝するわ」
「…………助けてなんかいねぇよ。勘違いすんじゃねぇ」
ルカは振り向き、ヴィオレッタを睨みつける。頬は赤く色づいており、美味しそうだ。
あぁ、食べたい――。
そんな衝動に駆られる。しかしヴィオレッタは、我慢をする。
「結果的に私を助ける形となったのだから、素直に感謝を受け取ればいいじゃない。相変わらず素直じゃない男ね。面白みがないわ」
「お………………」
ヴィオレッタはルカに用がなくなったと言わんばかりに、背を向けて歩き出してしまった。ルカは、彼女に「面白みがない」と言われたことがかなりショックだったのか、気絶する男たちに混じって一緒に意識を失ってしまいそうになった。
ルカはふと、彼女の先程の言葉を思い出す。
『あいにく私は粗末なモノをぶら下げている男とは遊ぶつもりはないの』
ルカは
なんとか意識を保ちながら、自身の下半身をチラリと見る。
「粗末じゃ、ねぇよな……」
来たる日のため。必要とあれば、下半身を鍛えなければならない。その辺の
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