第5話 悪女と新皇帝
「新皇帝陛下に
あなたが即位したんだから帝国はもちろん栄えるに決まっているわよね? といった意味合いが含まれた言葉に、新皇帝はエメラルドグリーンの瞳をパチクリと瞬かせた。父である皇帝を
すっかりと毒気を抜かれた新皇帝は、上機嫌に微笑んだ。
「名乗ることを許そう」
「この上ない光栄ですわ。私は、ヴィオレッタ・アリスティーラ・リ・ルクアーデ。ルクアーデ子爵の令嬢にございます」
ヴィオレッタの名を聞いた新皇帝は、目を見開く。ヴィオレッタは、反応を示した新皇帝に対して、堕ちた獅子の名も
「かの《四騎士》騎士王様の凱旋パーティーですわよね? さぁ、
少しの狂いもない完璧な笑み。新皇帝は、ヴィオレッタを大層な女だと鼻で笑った。
我先にと脱出しようとしていた貴族たちは、徐々に元の位置に戻り始める。新皇帝が即位した今、勝手に帰ろうとするのは、反逆罪として処罰されかねないからだ。
どこか重たい雰囲気の中、間は再びパーティーモードへと突入する。一流音楽団の奏でる音色に合わせ、貴族たちがダンスを踊る。先代皇帝が死んだというのに笑い泣きをし始めるという頭のおかしい悪女のヴィオレッタをダンスに誘おうとする
「お前……あの男に目をつけられたら人生終わんぞ」
「あら。それは親切心かしら。私は既にあなたに目をつけられた時点で人生終わってるのよ」
「……んなに………………かよ……」
「お兄様。私、とても疲れたわ。もう帰りましょう」
「お前が疲れたと言うなら帰ろうか。受付の方に報告だけして…」
ヴィロードはそう言って、
「グリディアード公爵令息。私たちはこれで失礼いたします」
「……ルクアーデ子爵。今度、お話したいことがあります。時間をいただけますか」
「あ、あぁ、もちろんです」
ルカはヴィロードに一礼すると、ヴィオレッタに睨みを利かせ、去って行った。
最後まで腹の立つ男だ。わざわざ
考えるだけ時間の無駄だと感じたヴィオレッタは、頭の大半を占めていたルカの存在を
騎士王の凱旋パーティーから数日が経った。
新皇帝アイヴァンの即位と、先代皇帝の退位並びに逝去の話は、瞬く間に世界中へと広まった。新皇帝は父を殺した恩知らずであるだとか、
ヴィオレッタは、自室で本を読みながら、暴君と恐れられる皇帝のことを考えていた。その時、思考を
「どなた?」
「私だ」
「お入りになって」
ヴィオレッタの部屋を訪ねて来たのは、ヴィロードだった。いつも柔らかな笑みを
ぎこちなく、そう広くはない部屋の中央まで歩いて来たヴィロードは、ヴィオレッタの向かいのソファーに腰掛けた。思いのほか尻が沈んだため、ビクッと驚いている。
「どうかしたの?」
「あ、あぁ……」
「歯切れが悪いわね」
ヴィオレッタが溜息混じりにそう言って、本に
「皇族からの、手紙……」
「それも、皇帝陛下からだ」
ヴィオレッタは目を見開く。ゴクリと喉を鳴らし、そっと手紙に触れた。指先を通して伝わってくるいかにも上質な封筒。ヴィオレッタは丁寧に、レターオープナーを使って封筒を切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。