第4話 新皇帝の即位
皇帝に声をかけたのは、アイヴァン・ジェフ・アーノル・ヘティリガ。ヘティリガ帝国の皇太子だった。
ルカに引き続き、アイヴァンの登場に、令嬢たちの興奮は
「今から、何が起こるか、父上には分かりますか?」
アイヴァンは、ゆっくりと上段に上がる。
「
アイヴァンは、鼻で笑い飛ばしながら、そう言った。
明らかにおかしな雰囲気。今から何が起こるのか、それは皇帝だけではなく、この場にいる貴族誰しもが分からないことであった。ヴィオレッタも
「何が、言いたい……」
「これ以上、俺の期待を裏切るのはやめていただきたい」
アイヴァンは、腰に携えた剣を
「おいっ、誰か助けんか!!! このバカを止めろ!!!」
皇帝の叫びに反して、
アイヴァンは、皇帝に近寄る。腰が抜けているせいか、立てない皇帝の頭上に剣を掲げた。
「その座は、俺のものだ」
キラリ、と流れ星の如く美しく光った剣先が振り下ろされる。
「皇帝たる証を持って来い」
「かしこまりました」
ひとりの騎士が転がっていた
「ヘティリガ帝国新皇帝アイヴァン・ジェフ・アーノル・ヘティリガ。全員、俺を
澄んだ美声。皇太子であったアイヴァンは、今この瞬間より、ヘティリガ帝国の頂きに
ヘティリガ皇帝の証である冠の下からゴールドの髪がサラサラと落ちる。エメラルドグリーンの双眸は、父である皇帝を殺したというのに、恐ろしいまでに澄みきっていた。神聖なる美を構え、神たる風貌を携えたルカとはまた違った美しさ。人間の
皇太子が皇帝を殺して即位する。または、皇位継承権争いの最中で皇子や皇女が皇帝を殺すといった事件は、ヘティリガ皇族において珍しいことではない。だが、公の場、それもヘティリガ帝国の戦闘力の
「ふふ、ふふっ……」
クスクス、と場違いな笑い声が響く。先程までヴィオレッタを殺す勢いで見つめていた令嬢たちも、こいつ正気か? とでも言いたげにヴィオレッタを見つめている。
不祥事を犯した父、ルクアーデ公爵に救済処置を設けず、そして不祥事が真実なのかもろくに調査しようとせず、彼を簡単に殺した皇帝が、今、たった今、ヴィオレッタの目の前で無様に死んだのである。これほどの
皇帝の死に対して、笑いながら泣くというおかしなヴィオレッタに、新皇帝もルカもヴィロードさえも呆気に取られていた。
「どいつもこいつも、バカしかいないじゃないの」
ヴィオレッタは目元の涙を拭い、大きく深呼吸をする。一通り笑ったことに満足したヴィオレッタは、周囲の視線を集めてしまっていたことにようやく気がつく。が、動揺を見せる彼女ではなかった。咄嗟にまずい、と思ったルカは、新皇帝から見えぬようヴィオレッタを庇う。
「女の無礼を許す。退け、騎士王」
「……………」
「聞こえなかったのか。退けと言っている」
「チッ、クソが……」
ルカは新皇帝を
エメラルドグリーンの瞳とプリムローズイエローの瞳が合わさる。青と黄色の共演は、海と月のように美しく見えた。
たったふたりだけの時間。何者も邪魔することを許されない空気の中、新皇帝とヴィオレッタは互いを見つめ続けたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。