第3話 真の婚約者
凱旋パーティーから黙って帰ることもできず、ヴィオレッタとヴィロードは再び宮の間へと戻って来ていた。
ヴィロードの姿に、反応を示す下級貴族の令嬢たち。ヴィロードの隣にヴィオレッタがいることに気がついた瞬間、彼女たちは分かりやすく敵意をあらわとした。
女性陣はヴィオレッタに対してあからさまに
「ヴィオレッタ。何か飲むか?」
「そうね。いただこうかしら」
ヴィロードは近くを歩いていた
「私、お兄様と血が繋がっていなかったら、絶対お兄様と結婚していたわ」
「それは嬉しいな。この世で一番美しいヴィオレッタと結婚できるなんて、私は幸せ者だ」
冗談を冗談で返してくれる優しさも持つヴィロードに、ヴィオレッタは彼がいてくれるのならあとは何も望まないと感じた。
あまり風貌の似ていないふたり。血が繋がった兄妹と知らなければ、仲のいい若夫婦だと勘違いされてもおかしくないほどである。
ヴィオレッタとヴィロードが放つ
「ルクアーデ子爵」
「おや……グリディアード公爵令息」
何重にも重ねられた分厚い結界を叩き割ったのは、ヴィオレッタの婚約者ルカであった。
「ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
「そんなっ……気になさらないでください。本来なら、こちらから挨拶に
ヘティリガ皇帝に対しても全く敬語を使わないことで有名なルカが、格下の貴族であるヴィロードに敬語を使っている。その事実に、ヴィオレッタはじめ、多くの貴族たちが驚愕した。先程までルカを取り囲んでいた令嬢方は、悔しげな色を瞳に滲ませる。ルカが婚約者の兄であるヴィロードには、礼儀を心がけるということが、ヴィオレッタを真の婚約者であると認めているかのようだ。
「おい、俺はまだ許してねぇぞ」
「お兄様。この方は放っておいてあちらに行きましょう」
「え、え?」
ヴィオレッタがヴィロードの腕に抱きつく。その瞬間、一気に放たれる
「次は合わせろ。いいな」
「………………」
「チッ」
圧倒的に言葉が足りないが、次の正式な場では服装を合わせろということだろう。返事をせずルカをいない者として扱っているヴィオレッタに、ルカは小さく舌打ちをかました。
「
突然騎士の声が響き渡り、騒がしかった貴族たちは、一瞬のうちに黙り込んだ。身も重たくなるほどの
玉座にドカッと座ったのは、ヘティリガ皇帝であるニコラス・ケイト・アーノル・ヘティリガ。肩辺りまで伸びたゴールドの髪に、
皇帝からあからさまに目を逸らすヴィオレッタをチラリと見たルカ。皇帝を毛嫌いするのも仕方ないか、とターコイズブルーの瞳を伏せた。
「皆の者よ。宴を楽しむがよい」
かれた皇帝の声に、ヴィオレッタは身震いをした。ヴィロードも先程までの優しさはどこへやら、険しい表情を浮かべて皇帝を睨みつけていた。
「皇帝陛下」
口を開いたのは、誰であったか。騎士でもなければ、ほかの貴族でもない。ふらっと姿を現したのは、さらりと絹のようなゴールドの髪に、
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