十一
吉川の細君はこんな調子でよく津田に
「奥さんはずいぶん意地が悪いですね」
「どうして? あなた
「そう云う訳でもないですが、何だか意味のあるような、またないような
「後なんかありゃしないわよ。いったいあなたはあんまり研究家だから駄目ね。学問をするには研究が必要かも知れないけれども、交際に研究は
津田は少し痛かった。けれどもそれは彼の胸に来る痛さで、彼の頭に
「
津田の顔が急に堅くなった。
「解ったでしょう、誰だか」
細君は彼の顔を
「御気に
「いえ何とも思っちゃいません」
「本当に?」
「本当に何とも思っちゃいません」
「それでやっと安心した」
細君はすぐ元の軽い調子を
「あなたまだどこか子供子供したところがあるのね、こうして話していると。だから男は損なようでやっぱり
細君は津田を前に置いてお延の様子を形容する言葉を思案するらしかった。津田は多少の好奇心をもって、それを待ち受けた。
「まあ
細君の語勢からいうと、「大事にしてやれ」という代りに、「よく気をつけろ」と云っても大した変りはなかった。
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